日本図書館研究会研究例会(第217回)報告
- 日時:
- 2004年2月25日(水) 18:30〜20:45
- 会場:
- 大阪市立総合生涯学習センター第2会議室
- 発表者 :
- 福西敏文(大阪市立盲学校)
- テーマ :
- 弱視者への図書館サービスについての一考察―弱視の利用者への面接調査をふまえて―
- 参加者:
- 11名
発表者の福西氏は、修士論文「弱視者の「読む」と公共図書館サービス」をもって大阪教育大学夜間大学院を修了された。本研究例会では、その後の知見も踏まえて発表された。
0.はじめに
弱視者は単なる低視力者ではなく、変視症、羞明(光順応の困難)、視野障害、夜盲など、異なる様々な症状を併せ持つことがほとんどであり、弱視者個々人の見え方、見えにくさも千差万別である。
また、白杖を携える弱視者は少なく、来館しても、全盲の視覚障者と比べて人的支援を得にくい場合が多いと考える。さらに、公共図書館、点字図書館の視覚障害サービスには、対面朗読や点字図書、録音図書の貸出など、全盲の視覚障害者の利用を想定したものが多いのが現状である。
しかし、今日、30万人を超える視覚障害者の68.2%は弱視者であり、弱視の利用者を明確に意識した図書館サービスにも注意をはらうべきである。
1.弱視者への面接調査
弱視者の顕在化・潜在化した情報ニーズを把握し、弱視者サービスのあり方の考察に役立てるため、2001年2〜4月に、15〜57歳の弱視者24名への面接調査を行った。調査の結果は、WHOが2001年に採択した国際生活機能分類(ICF)を参考に分類・整理し、次の考察を得た。
- 図書館付近まで来ながら所在地を見つけられなかった体験や、大規模な図書館よりも町の小さな書店やコンビニの方が、本や雑誌を探しやすいという感想をもつ弱視者が複数いた。弱視者にとっては、車いす利用者のような垂直移動ではなく、図書館周辺と館内案内表示のきめこまかな工夫など、水平移動のバリアフリー達成が重要課題であろう。特に、館内案内表示でそのコーナーにたどり着いても、求める本が書架のどの位置にあるかが探し出せないと述べる弱視者が多い。
- 被調査者のほとんどは、学校で支給される教科書に、それが拡大教科書であっても不便を感じ、教育権が保障されていないと厳しく指摘した例もあった。解決策として複数の被調査者が、盲学校図書館の「拡大写本サービス」を利用して、教科書を、自分の見やすい拡大写本資料として製作する依頼をしていた。公共図書館で拡大写本サービスの利用を経験した者はいなかった。
- 公共図書館の行う視覚障害者のためのパソコン利用講習会の受講を希望する者も多かった。しかし、全盲者を対象とした音声ガイド付きパソコンの講習が主で、弱視者用画面拡大ソフトの講習は希である点が問題として指摘された。
- 弱視者は身近な支援者から様々な情報を得ていたが、支援者が夫婦や家族、友人であっても「気兼ね」を感じていた。情報入手が常に晴眼者の「後追い」になることに不満を述べた。こうした問題は、公共図書図書館における弱視者サービスの充実によって解決が可能になるのではなかろうか。
2.弱視者サービスの発展のために
- 見え方の差異の大きい弱視者の、個々の見え方を考慮して、いわばオーダーメードで製作・提供する「プライベートサービス」が拡大写本サービスであるが、その普及は不十分である。コンピュータ技術の進展により、いったんテキストデータ化されれば、以後は文字サイズ等の柔軟な加工が可能となるので、今後図書館サービスとして普及させていくべきである。
- その際、著作権許諾処理が問題となる。弱視用図書は点字と異なり晴眼者も読むことができるため出版社側の警戒も大きく、 著作権処理手続も煩雑である。そこででこれらの問題を解消するために、著作権許諾を一括して行う非営利法人組織を模索する動きがある。図書館界としてもその実現に力を尽くす必要があるだろう。
- 開架式図書館サービスを弱視者も利用できるようにする努力が重要である。そのため、当面は、閲覧室や書架での対面朗読あるいは対面レファレンスサービスの実施も必要である。将来的には、弱視者が自力で、求める本のあるコーナーに行き着き、どんな小型の本でも書棚から探し出せなければならない。それには、従来の書架案内の工夫だけでは限界がある。求める本がその書架の何段目にあるかまでを音声や拡大文字表示で弱視者個々人に案内するようなIT技術等の開発普及を期待したい。
3.さいごに
視覚障害者の読書権保障運動が契機となって公共図書館の障害者サービスは始まった。それは、今日の図書館利用に障害のある人々へのサービスとして発展してきたが、いつの間にか、全盲者優先のサービスにとどまり、弱視者へのサービスは忘れられがちではなかったか。弱視者へのサービスを充実させることで、障害者サービスの利用層が一層分厚くなることを願っている。
発表後は、プライベートサービスの対象資料の範囲、著作権許諾の取扱い、公共図書館サービスにおける障害者サービスの位置付け等について参加者・発表者で討議を行った。
(文責:渡邊隆弘)