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《座標》
『図書館界』70巻1号 (May 2018)

公共図書館の複合施設化と入館者数

西尾 恵一

 図書館が,地域活性化・にぎわい創出の核施設として注目されるようになって久しい。各自治体が新
 館建設,あるいは建替時における基本計画や事業者公募のプロポーザル等における条件の一つに挙げ
 られていることが多くなっている。そのことに対して異論を挟むつもりはないが,このような「人集
 め」の結果による入館者数増が,図書館サービスの発展を反映したものになっているのだろうか。
 
 例えば最近では,2018年2月4日付の山陽新聞で岡山県の高梁市図書館について「開館1年65
 万人入館」との見出しで取り上げられている。記事によると当初目標の3倍を超え,旧図書館の入館
 者数の約2万3千人(2015年度)と比較しても確かに飛躍的な増加と言える。一方でこの記事で
 は,貸出冊数は当初目標に及んでいないことを指摘している。
 
 以前とは異なり,BDSが普及してきたことにより入館者数をカウントしやすくなっていることは事実で
 ある。ただ,実際には施設全体の入口部分に設置されることが多く,その場合,特に複合施設では純粋
 な図書館利用者を把握することは難しい。高梁市図書館もカフェや書店等を併設する複合施設であり,
 図書館ホームページの写真を見る限りBDSは施設全体の入口部分に設置されているため,入館者数はそ
 れらの利用者も含めた人数と推測される。
 
 全国的な傾向として,図書館を含む公共施設の集約・複合化が進行しつつある。その理由は,既存施設
 の老朽化や財政事情の悪化,人口減少や流出に対する地域振興等さまざまだが,集約化に伴う入館者数
 を増加させる方策の一つとして,カフェを始めとする商業施設を誘致することも多い。このことが必ず
 しも図書館サービスにマイナスの影響を及ぼすわけではないが,入館者数を指標とすることにより,図
 書館が入居している施設の評価が図書館そのものの評価であると混同される一因となっている。
 
 また,複合化の流れの中で新たに自習室を設置する図書館も増えてきている。しかし,これは「席借り
 のみの自習は図書館の本質的機能ではない。自習席の設置は,むしろ図書館サービスの遂行を妨げるこ
 とになる」と『公立図書館の任務と目標』にも明記されているとおり,本来図書館が率先して提供すべ
 きサービスではない。なぜ,スペースを割いてわざわざ図書館に設置しなければならないのか,その意
 義を慎重に検討する必要がある。
 
 もし,入館者数を指標として使うのであれば,その質がより厳しく問われなければならない。特に複合
 施設の場合,施設全体の評価としての指標としてならまだしも,現状においては図書館サービスに対す
 る結果として適切な数値とは言えない。入館者数以外での主な図書館指標の一つである貸出数は,図書
 館サービス利用そのものに対する数値であるが,入館者数はそれのみを反映したものとは限らない。以
 前,貸出冊数を増やそうという姿勢は,サービスの質が伴っていないのではないかという批判があった
 が,これはあくまでも図書館サービスの枠内における議論であった。
 
 入館者数の増加にこだわることは,地道に図書館サービスの内容を充実させることよりも,人気のある
 施設やイベントを誘致すればよいという傾向に陥りやすい。図書館には大きな可能性があるから新たな
 ことにチャレンジする,と言うと聞こえがいいが,資料提供を始めとする図書館が行わなければならな
 いこと,図書館でなければできないことを差し置いてまで優先すべきことではない。
 
 施設の複合化は,行政全体の流れであるために抗うことは難しいが,誘致せざるを得ない場合でも単に
 集客できるかだけではなく,図書館サービスに親和性があるか,実際にどのような相乗効果を生んでい
 けるのか注視しなければならない。図書館でなくてもできることは,図書館が存在しなくてもできると
 いうことを自覚しておきたい。
 
 図書館関係者の中にも貸出数よりも入館者数を重視する人がいるが,果たしてこのことをどこまで理解
 されているのだろうか。

(にしお けいいち 理事・大阪府立中之島図書館)