TOP > 『図書館界』 > 68巻 > 2号 > 座標 / Update: 2016.7.17
第57回研究大会のグループ研究発表で,小学校の学校司書の養成に関して,科目の軽減ができるのではないかという質問が出た。小学校の図書館活動は中身が少ないと思われたのだろうか。
フランスでは中等教育の学校図書館には専任のドキュマンタリストが配置されているが,初等教育の学校図書館は設置すら義務でなく,契約雇用職員や学校教育補助員の配置となっている1)。また,イギリスでは「公立の初等学校には,専任のスクールライブラリアンはほとんどいない」とのこと2)。
日本では,学校図書館は兼務の司書教諭とボランティアで運営できるとされてきた。2014年に学校図書館法が改訂され,学校司書が法律上に位置づけられたが,配置は努力義務で,その養成・研修に関しても手探り状態なのが現状である。学校図書館の二職種配置は他の国に例を見ないそうである3)が,地方自治体の努力によって配置された学校司書の実践は,すでに半世紀の積み重ねがある。そこには,小学校図書館での充実した活動が多々みられる4)。
「鉄は熱いうちに打て」ではないが,学校図書館に接する初期段階で,しっかり「学校図書館とは何ができる場所なのか」ということを身につけておくと,それ以降の学びに大きな差が出てくる。図書館ではわからないことを知ることができる,知りたいことが出てきたら図書館へ行こうという習慣が身についている子どもとそうでない子どもとでは,「知る」ことへのスタートダッシュが違ってくるのだ。
学校生活の中に図書館をどう位置づけるか,どんな図書館活動を構築して,それぞれの機をとらえ図書館としてどうアプローチし,どんなプロセスでどんな力を身につけさせるか。中学高校での探究学習の前段階として,小学校の図書館経験の中で,しっかり基礎力をつけておくことが大切なのである5)。
学校図書館の機能として「読書センター」と「学習・情報センター」が挙げられる。特に,小学校図書館ではそのバランスの見極めが大切である。学習面ばかりが前面に出て,図書館が楽しいところでなくなり,児童に敬遠されるようになっても困る。本に親しむ活動として,読み聞かせ,ブックトークのみならず,ペープサートやパネルシアターなどの活動に必要な技術の習得は,小学校の学校司書には大命題だ。ぶっちゃけたところ,小学校の学校司書が中学校に転勤してもいきなり困ることは少ないが,中高しか経験していない学校司書が突然小学校に勤務することになると,途方に暮れるという話はよく聞く。手数をたくさん持っていなければならないのは,小学校の学校司書の方なのである。
子どもたちは小中高と,学校図書館を経験していく。目の前の子どもが,中学校でどんな図書館を経験していくか,小学校で何を経験してきたか,お互い知っておくことは,図書館活動を構築していく際に必要な情報である。
今年も初々しい中学1年生がせっせと図書館に来ている。図書館のガイダンスは1時間かけて行っているが,どうしても小学校の時の習慣が顔を出す。司書を使い倒す習慣のついている子は,躊躇なく聞いてくる。借りた本を自分で棚に戻す方式だった子は,カウンターの前でたたずんでいる……。
小学校で身につけた習慣は偉大だ。小学校図書館にこそ,“専任”“専門”の司書がいてもらいたい。そして,子どもたちよ,小学校の間に“ふだん使い”の学校図書館6)をいっぱい体得してきてね。
注) 1)須永和之「フランスの学校図書館」『日仏図書館情報研究』bR8,2013.11,p.23―38. 2)松戸宏予「イギリスの特別なニーズ教育と学校図書館の関わり」『図書館情報メディア研究』3(1),2005.9,p.89―120. 3)中村百合子『学校経営と学校図書館』樹村房,2015,p.154.(司書教諭テキストシリーズU−1) 4)『なにかおもしろい本な〜い』学校図書館問題研究会編,教育史料出版会,1991.7,207p. 5)塩谷京子『すぐ実践できる情報スキル50学校図書館を活用して育む基礎力』ミネルヴァ書房,2016.4,202p. 6)内川育子「いつでも司書がいる“ふだん使い”の学校図書館」,『学校司書って,こんな仕事』学校図書館問題研究会編,かもがわ出版,2014.7,p.16―24.
(かのう ゆき 理事 灘中学校灘高等学校)