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《座標》
『図書館界』67巻2号 (July 2015)

施行せまる「障害者差別解消法」と図書館

前田 章夫

 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という。)が2016年4月1日に施行される。2007年に日本政府も調印した「障害者の権利に関する条約」(以下,「障害者権利条約」という。)の批准に向けた関連法規の整備の一環として制定されたものである。

 障害者に対する意図的な区別や排除,制限するような差別的な扱いを禁止するとともに,国・自治体など公的機関に対して「合理的配慮」の義務化により,障害者に実質的な平等を保障していくことを目的とした法律である。また2015年2月には,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下,『基本方針』という。)が示されている。

 ところで障害者差別解消法は,差別の解消に向けて,以下の3つの行動を求めている。

  (1)「障害を理由とする差別」の禁止(義務)

  (2)「合理的配慮」の提供(義務)

  (3)環境の整備(努力義務)

 (1)の「障害を理由とする差別」とは,「正当な理由なく,障害を理由として,財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供にあたって場所などを制限する,障害のない者に対しては付さない条件を付けるなど,障害者と障害のない者の間での異なる取扱により,障害者の権利利益を侵害すること」(『基本方針』)を指しており,これらの行為の禁止を求めている。また障害者基本法は,この差別には,障害を理由とした直接的な差別だけでなく,「社会的障壁」の除去を怠ることも含まれるとしている(第4条)。この「社会的障壁」というのは,「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のものをいう」(基本法第2条)とされており,非常に幅広い概念である。

 (2)の「合理的配慮」は,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」(『基本方針』)とされている。すなわち,障害者と障害のない者との実質的平等を実現するために,当事者同士が調整することを義務化し,財政的,人的などの面で過度の負担がない限り実現に努めなければならない。

 (3)の「環境の整備」は,単に施設の改善,設備・機器等の整備にとどまらず,手話通訳者や要約筆記者の配置,職員に対する研修なども含まれる。努力義務とされているが,『基本方針』に示された次の文言に注意する必要がある。

 「合理的配慮は,障害者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化や情報アクセシビリティの向上等の環境整備を基礎として,個々の障害者に対して,その状況に応じて個別に実施される措置である」

 すなわち,義務とされる「合理的配慮の提供」については,バリアフリー化や情報アクセシビリティ等の環境整備が前提となっているのである。

 障害者差別解消法の施行が迫る中で,大学においても障害学生支援の動きが活発化している。また公立図書館においても,障害者サービスの検討を始めているところも増えている。

 しかし,障害者権利条約や障害者差別解消法が求めているのは,障害学生支援や障害者サービスの実施だけではない。施設・設備の整備はもとより,職員や住民の中に残る障害者に対する偏見,差別意識を取り除いて,図書館等の運営・経営全般に活かすような取り組みを求めているのである。

 障害者権利条約は,その基本として,「合理的配慮」により,障害者に実質的な平等を保障することに加えて,意図的な区別や排除,制限だけでなく,意図的でない場合でも結果的に不平等になることは差別である,との考え方をしている。そして社会のあらゆる局面における障害者のアクセシビリティ(accessibility)を重視している。当然のことながら,障害者差別解消法の根底にも同じ思想が貫かれていることを忘れてはならないだろう。

(まえだ あきお 理事長)