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《座標》
『図書館界』64巻2号 (July 2012)

「分館サミット」は如何?

松井 一郎

 月1回程度日帰りで東海道を東へ歩いている。参勤交代や庶民の社寺参詣,そして物流,通信にも寄与すべく統一した基準で宿場の整備が行われたはずだが,そこは人間のすることで,五十三次それぞれに個性的な街並みとなった。その歴史遺産を如何に活用するかで自治体ごとに差があり,保存状況の違いもあって,よそ者から見ると宿場間格差は一段と拡がっているようにも見える。

 公立図書館もまた,地域資料を扱う場合等においては特色が生じる。館内に郷土資料室を設け,他の何処にもない資料をウリにしている自治体があるし,小生が活用しているガイドブック でもいくつか登場し,存在感を示している。

 ただ,貸出を中心として市民生活に役立つ施設であることを使命として掲げてきた公立図書館としては,市民に親しまれる雰囲気作りで工夫することはあっても,資料について他の図書館と大きく異なるような取組みはしてこなかった。むしろ「金太郎飴」を目指してきたとも言える。日常生活において市民が求める資料に,地域ごとの差違は大きくないという考え方によるものだと思う。特に地域館・分館・分室等と呼ばれる,中央館や本館の存在を前提とした図書館(以下,分館と総称)にあっては,どの館においても資料構成は基本的に同じものを目指してきたというのが,大方の公立図書館の実態と思われる。

 そこに,電子書籍の登場である。ネットを活用すれば手元で膨大な情報が簡単に得られる時代に,今後も図書館が資料を探し求める市民の拠り所として存在し続けることが出来るのだろうか。中央館など大規模な図書館の場合はまだ良い。紙の資料をより多く所蔵していること,寛げる空間も比較的多いことに加えて,電子書籍を購入し市民に提供するという業務が成立し得るからである。また,電子書籍を発行する という役割も考えられるだろう。しかし,いずれの場合も各自治体では「1箇所で対応」という判断が行政的に行われがちである。市内各所で電子書籍の貸出や製作が行われることは技術的に可能でも,決して効率的と言えるものではない。

 このように,分館はより深刻な事態に直面していると思うのだが,出版界の電子書籍への切替が表立っては大きく進んでいないことなどもあって,負の影響は今のところ小さいように思える。

 そんな中,日図研では昨秋「図書館というスペースを考える」と題して第8回国際図書館学セミナーを開催し,発表者で理事の南亮一氏が「図書館でしか得られない何かを求めて来館」 する場として図書館の発展を期待している。概ね異存はないが「分館でしか得られない何か」を提供するのは並大抵のことではないように思われる。

 そこで,分館運営の当事者が集まり,分館の将来を語り合う場を設けてはどうだろうか。分館長が業務上の課題や自身の考えを語るには限界があるかも知れない。また,業務委託や指定管理者による運営の場合,そのノウハウを広く公開するには「企業秘密」という壁がありそうだ。実現には相当の困難が予想されるが,活路を拓きたい現場の職員も多いのではないか。

 幸いにも,分館業務の柱である貸出について,売上に好影響を与えているとするレポート も出た。「追い風」のあるうちに取組むべきであろう。宿場町の状況から自治体間の施設整備の格差を垣間見,さて図書館まで,さらに分館まで人材と資金が回るのかが懸念される。分館が使命を果たし続けるために必要なことは何か,共通認識が出来ればと思う。