前回本欄執筆時(50巻2号)にアクセスログによる日図研ホームページ利用状況を報告しましたが、1年を経てまた調査してみました(1999年3月の1か月間)。その結果、推定アクセス人数(トップページアクセス数による)が1日あたり約10人から18人へ、各画面への延べアクセス数合計が一日あたり約45回から95回へとまずまずの伸びを 示しています。
さて、前号の「座標」(寒川登氏)にも紹介されているように、学術審議会の建議「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」(平成8年7月)から約3年、大学図書館における電子図書館への取り組みは着実に進んでいます。特に国立大学を中心に、所蔵資料や学内研究成果物の全文を電子化してネットワーク上で公開するところが増えてきました。九州地区国立大学附属図書館電子化推進連絡会議「資料電子化の効率的な促進に関する調査報告書」(1998.11)中の実態調査では、国立大学等の約半数が、電子化資料のホームページ提供を行っているか、近く予定していると回答しています。筆者の勤務館でも数年前から徐々に進めてきましたが、予算措置をいただき、より本格的なオープンを間近に控えています。
ただ、一部の図書館だけの世界ではなくなってきたとはいうものの、電子図書館を図書館業務全体の中でどう位置づけるかという点は、まだ十分落ち着いていないように感じられます。電子図書館コンテンツの作成提供は、伝統的に培われてきた図書館業務の流れとは切り離して行われがちです。全体計画と入力対象選択(従来の収集選書にあたる)、データの入力と蓄積(資料組織化にあたる)、公開と提供、という各側面で大きく違う点もありますが、基本的には通じるところが多いと思います。純技術的な部分にのみ目を向けるのではなく、図書館員としての専門性を発揮する必要があります。
とりわけ、情報の組織化に関わる部分には不安を覚えることがしばしばあります。作成したコンテンツのメタデータ(目録情報のような「データに関するデータ」)についての注意が希薄なように感じられるのです。目録は現物資料の代替であるから資料本文が入力されれば不要だという向きもあるかもしれませんが、全文検索ですべてが片付くわけではなく、一定の品質を保ったメタデータの必要性は揺らがないでしょう。
大学図書館では今日まで目録業務に多くのコストを費してきましたが、それは所蔵資料の目録情報提供が、資料と利用者を結びつけるという意味で優先度の極めて高いサービスであるとの認識に基づきます。大多数の大学図書館が参加している学術情報センターの目録所在情報システムも、その本質は(目録業務の省力化だけではなく)全国総合目録の形成と目録情報の均質化にあります。
翻って電子図書館を考えると、メタデータの作り方は全くばらばらといってよい状態です。電子図書館コンテンツの場合、一次情報まで入力すれば従来主に扱ってきた単行書誌レベルのメタデータでは不十分である、下位レベルまで扱えば構造表現が複雑になる、ハイパーリンクにようにさらに複雑な構造もありうる、等々の問題があり、これまでの目録のノウハウでは必ずしも収まりません。また、一次情報も自ら作成するとなると、その際の作成単位や構造がメタデータの形式をかなりの部分規定します。結局、拠り所となる規範が存在しない部分が多いので、不統一も仕方ないともいえます。
しかしながら、各図書館での入力・蓄積が進めば、総合目録ふうに集積するかどうかは別にして、統合的検索の必要性は必ず出てきます。そのためには、何らかの規範を意識した、論理的に筋の通ったデータ作成が求められます。よく言われることですが、システムは一新できても、いったん作ったデータの構造変換は容易ではありません。
残念ながら明快な具体案は思い浮かびませんが、そんな不安を抱えながら入力仕様をあれこれ考えている毎日です。
(わたなべ たかひろ 神戸大学附属図書館)