TOP > 『図書館界』 > 49巻 > 4号 > 座標
1997年2月から神戸市須磨区で起こった連続通り魔事件は、5月24日に行方不明になった小学校6年の男子児童の頭部が5月27日に発見されるという悲惨な結末を見た。
1ヶ月後の6月28日、容疑者として中学3年14歳の男子生徒が逮捕された。
7月2日発売の『フォーカス』(7月9日号)に少年の顔写真が掲載され、7月3日発売の『週刊新潮』(7月10日号)にも目隠しの顔写真が掲載された。しかし発売以前にそれを知った各方面から発売中止の要請が相次ぎ、多くの書店とコンビニエンス・ストアや駅の売店が販売を中止した。7月4日には東京法務局が、新潮社に対し二誌の回収を勧告した。二誌の報道に対して世論は賛否両論に分かれた。少年法の精神を尊重し、人権とプライバシーを守る立場の人たちは掲載に反対し、凶悪犯罪に対して少年法の適用は無用という立場の人たちは掲載は当然であると主張した。
このような報道の自由と人権に関わる論争の中、図書館界においても二誌の扱いに関して困惑を深めていた。日本図書館協会(以下「協会」)には何十件となく問い合わせの電話が入ってきた。あまりに問い合わせが殺到したために、7月4日、協会は考慮すべき最小限の基本的要件を指摘した見解を表明した(『図書館雑誌』8月号に掲載)。
内容は、少年法61条に抵触する可能性があること、自由宣言のいう「人権またはプライバシーを侵害するもの」に該当すると考えられることの二点を踏まえ、自由宣言にある「資料を保存する責任」に留意した上で、各図書館がそれぞれ主体的に対応するよう求めたものである。
各図書館の対応はさまざまではあったが、おおむね何らかの閲覧制限を行っている。
大別すると次のようになる。
今回の事件は、容疑者が14歳であったこと、速報性の高い週刊誌であったこと、事態が急展開したことなどの理由で、各図書館では即時の対応を迫られた。多くは自館で主体的に取り扱いを決めたと考えたいが、実際には、外部にお伺いを立てたところも多く、教育委員会の指示に従った館もあった。協会に問い合わせてきたのも、協会に指示を期待してのものが多かった。
最近、図書館の自由に関わる重大な事件が続発し、図書館の信頼性が問われることがしばしばである。国民の知る自由を保障するために最大限の努力をするなかで、やむを得ず資料提供になんらかの制限を加えるかどうかの選択を迫られる。この対応が、いかに一筋縄ではいかないものであるかは、これまでの歴史を見ればわかる(『図書館の自由に関する事例33選』日図協,1997)。どこかの権威筋が一律に決めて指示をすればよいものとは根本的に違う。名古屋市図書館の職員集団がピノキオ問題の取り組みの中から導き出した検討のための三原則を改めて確認したい。1.問題資料の検討は職員集団全員で、2.広く市民参加で、3.当事者の意見を。
これを遂行するためには、図書館の役割を知悉した見識ある図書館長とそれを支える専門職群が欠かせない。地方分権推進委員会のいう「図書館長の司書資格等、当該資格規制がなくても事務の遂行に支障がない」など認識不足も甚だしい。一方では神戸の少年殺害事件に際して、文部大臣は「心の教育」を強調している。知的自由無くして豊かな心の成長はあり得ないと私は確信するが、日本の図書館界は、夜明けを迎えたとたんに日没に臨んだのであろうか。しかし明けない夜はない。
(みとま まさかつ:夙川学院短期大学)