TOP > 大会・研究会等 > 研究大会 > 2007年度 / Update: 2008.7.9
第49回日本図書館研究会研究大会(2007年度)は,標記の日程・会場によって開かれた。全国から計153名(前年度比33%増)が参加され,第1日目に個人研究発表とグループ研究発表,第2日目にシンポジウムを行った。シンポジウムは「現今の教育法制の改変と図書館」をテーマとした。
グロスターシャー公共図書館への調査をもとに,英国における地域の視覚障害者サービスは,公共図書館が行う住民への基本的図書館サービスの一環と掌握した。視覚障害者用メディアの作成等は,国家規模の基幹サービス機関RNIB(Royal National Institute of the Blind People)のトーキングブック・サービス部門や,同NLB(National Library for the Blind)などが行い,地域の公共図書館は基幹組織から受けたメディアを視覚障害者に届ける。そのゲートウエーと見定めた。以上の観察を日本の視覚障害者サービスの実情に重ね合わせ,基幹施設(サービス)の欠如の現状とその確保の必要性を訴えた。また,地域における視覚障害者サービスを,英国同様に公共図書館の日常的サービスと位置づけ,定着させるべきことを主張した。
1998年から8年間勤めた2中学校における,学校図書館に対する顕在的・潜在的ニーズを質問紙を用いて調査し,因子分析法をもって分析し,まとめた。
19世紀後半から米国の公共図書館を支援し,各州の巡回文庫(traveling library)導入に働きかけた女性クラブ(women's clubs)が,自ら巡回文庫を実施し,さらには図書館委員会に参画し,内部から図書館活動を促進したという,積極的な図書館活動者としての性格を浮き彫りにして,これに史的な評価を与えた。
学校教育上に援用されるデジタル教材と学校図書館の連携を求めて,二つの自治体の理科の授業計画に参加した図書館情報学学修者による報告である。ただし,授業へのデジタル教材導入のための情報関係知識・技術の提供に従事した。結果,本来目的とした授業,教材,学校図書館の連携については今後の追究に待つとし,予備的な研究である旨括った。
大阪府立中之島図書館のビジネス支援のサービス内容と利用傾向をカテゴライズし,利用可能性,状況を調査して,同館のサービスが近接のビジネス街関係者に集中する事実を把握した。ゆえに,同地区外,北摂地域の調査に移り,同地域でのビジネス支援が「一般的」「短期的」なタイプに留まることを掌握した。これを「専門的」「長期的」タイプへ進展させるべく,その方途として大学図書館との連携を求めた。デジタル関係では,調査対象図書館が利用している有料データベースをあげた。
図書館目録(OPAC)の検索機能を,エンドユーザによるWeb上の情報検索を容易にしているGoogle Book Search(2004年10月〜)などと比較し,その将来設計の必要性を主張した。多彩な観察であるが,図書館における情報組織化,目録(OPAC)を検索主体に転換することを見とおし,インターネット上のコンテンツをユーザ自身が任意にタグ付け検索に役立てる仕組みフォークソノミー(「folks」+「taxonomy」の合成造語)の導入をも示唆した。書誌コントロールの確立,目録規則の再編など基盤面の整備が急務だが,図書館目録の再設計,ドラスティックな改革が求められると結論した。
大阪に焦点を合わせ,文庫活動の変遷とその地域性を,図書館,BMと文庫活動を軸に検討した。過去の統計書類(いずれも5年刻み)に一貫したものがないが,文庫数の増減をこれらから概観することは可能として,文庫への補助金の額,図書館数,個人貸出冊数,児童数などの増減と対比している。これらを因子関係において分析を試みた。
過去の図書館法・図書館法施行規則の改正と比較検討し,現時点(2007年11月段階)における図書館法改正(案)の概要を示した。特に,同法第5条1項の「大学における科目」の実定化方向を踏まえ,司書養成の「あるべき姿」を捷言した。さらに司書講習科目の並立,つまり講習科目依存タイプ=「相当司書」,大学独自タイプ=「検定司書/認定司書」(認定司書)と分けるものとする。LIPERの検定試験などを一部背景としているが,同グループ独自の主張である。
『図書館戦争』シリーズ(有川浩著)は,図書館利用教育にも用いたいとする見解も生んでいる。小説ゆえ,現実と違う所があって当然である。だが相当の部分が事実を照射しており,それゆえ逆に異なる部分を確認しておくべきとする。こうして画された報文は,特に「図書館の自由に関する宣言」に着目している。同宣言1979年改訂の第4項目が「すべての不当な検閲に反対する」と変形されているからである。「小説」として尊重,通読し,重厚な引用をもって研究対象化しようとした。
頭脳労働,肉体労働に続く第三の労働として1990年代から航空機の客室乗務員等の職務に関係づけられて議論されてきた感情労働について,大学図書館員の労働を当てはめて考察しようとした。まず,感情労働の何たるかを史的に把握し,Charles Bungeによる,図書館におけるストレス原因の分析的研究を軸に,欧米,オセアニアでの対公共図書館員研究をなぞった。これを大学図書館員にあてはめようとする。感情労働の従来的「相手」は利用者であるが,大学図書館においては,機関リポジトリを充実させるためには教員(研究者)に変化している。これに,新たな感情労働の把握が考えられるとする。
「とはいえ,大学図書館における今日的課題から生じると思われる感情労働の可能性について述べるにとどまり,分析や実証はこれからの課題である。
今後は,大学図書館における感情労働及びストレスに領域を広げ,アンケート調査やインタビューなどを行いたい」と発表を結んだ。
5人のパネリストから,以下の報告をいただいた。
その後,山本順一コーディネータの進行の下,約2時間半にわたり討議を行った。
なお,各パネリスト,コーディネータには熱い意見(交換)をいただきましたが,事前の守備範囲の明確化等,連携・調整について,研究委員長としての私(志保田務)において万全を欠いたため,講演者,参会者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びします。
(文責:志保田務 研究委員長)