TOP > 大会・研究会等 > 研究大会 > 2003年度 / Update: 2004.7.16

第45回(2003年度)研究大会全体報告

2004年3月7〜8日 於:京都テルサ

日本図書館研究会

第1日目 / 第2日目 / 参加者感想
開催案内(スケジュール表等)
*詳細報告は、『図書館界』45巻2号に掲載しています。

第一日目の概要

〈個人研究発表〉

「英国の高等教育機関における図書館情報政策とフォレット報告」
呑海沙織
(京都大学人間・環境学研究科総合人間学部図書館)
英国の高等教育機関における図書館情報政策に大きな影響を与えたフォレット報告の検討と高等教育機関における情報化政策のその後の展開及び今後の課題を報告した。
「図書館とフィルタリング・ソフトウェアの問題:理論構成のための試み」
前田稔
(筑波大学大学院)
図書館におけるフィルタリング・ソフトウェアは違憲か合憲か。アメリカ合衆国での判例の法律的な分析を通じて,従来のパブリック・フォーラム論だけではない新しい視点から考察した。

〈グループ研究発表〉

「最近における目録規則の改訂動向とその問題点 −電子資料と継続資料を中心に−」
河手太士,吉田暁史,渡邊隆弘(整理技術研究グループ)
電子的な資料の出現,情報組織化環境の変化により目録規則の改訂が行われたが,電子資料と継続資料に関わる改訂内容とその問題点を明らかにして,今後の課題を提起した。
「著作権法と図書館 −著作権契約と市場流通モデル」
北克一,呑海沙織(「マルチメディアと図書館」研究グループ)
現在の著作権政策の元,コンテンツ流通と資源回収モデルの中で図書館サービスはどうあるべきか,コンテンツ流通に果たす図書館サービスの役割,「公」としての役割,その意味を問題提起した。
「「情報」科目テキストにおける「図書館」」
藤間真,志保田務,谷本達哉,西岡清統(情報システム研究グループ)
高校新教科「情報」が導入された経過と教科の内容についての報告を行い,「情報」教科書に出てくる「図書館」「司書・司書教諭」の語の分析を通じて,図書館や司書がどのように考えられ,捉えられているのかについて考察した。
「大阪における児童図書館サービスの史的概観の試み」
平田満子,井上靖代(児童・YA図書館サービス研究グループ)
大阪での児童図書館の発展の背景となった児童文化活動や児童図書館に影響を与えた出来事を調査分析し,戦前から戦後にかけての大阪での児童図書館のサービス活動について検証した。
「司書教諭の発令の現状と課題ならびに養成について −大阪府・箕面市ほか7自治体における2003年度アンケート調査,高校はどうなっているか」
川原亜希世,北村幸子,柴田正美(学校図書館を考える会・近畿,図書館学教育研究グループ)
大阪府内7自治体の小中学校での司書教諭の発令状況とその活動内容を調査して,司書教諭の果たしている役割,位置づけを考察して今後の研修の必要性についても言及している。あわせて高校での実態も調査して今後の検討課題を提案した。

第2日目の概要

 「図書館のサービス評価を考える」をテーマに,5名の方の発表をもとにシンポジウムを行った。

三重大学の柴田正美さんからは「図書館評価の現状」と題して,図書館評価にかかわる図書館員養成の問題についてご報告をいただいた。
 これまでの図書館員養成教育のなかでは評価に関わる内容のカリキュラム設定がなされていなかった。そのため評価に必要な教育が行われておらず,養成された側は評価についての手法を持ち得なかったとの指摘をもとに論をすすめられた。今日必要とされている図書館運営についての評価は,単に統計数字の比較と言ったものから導きだせるものではなく,その数字の背景等を把握したうえでの判断が必要である。そうしたことから生ずる問題点の認識をもとにした変革につなげることが大事な点である。

元・岡山市立図書館の田井郁久雄さんは「どんな図書館を目指してきたか−公共図書館の現場から図書館評価を考える−」と題し,貸出を重視する立場から,現在話題になっている図書館評価について,岡山市立図書館での実践活動をもとに報告された。
 貸出サービスは読書案内や予約を含んだ総合的なものであり,岡山ではこのサービスが伸び続けている。これは結果として,貸出を重視する図書館サービスが市民から評価されたと言うことになる。これを維持しつづけることが職員の意識を敏感にし,利用をのばそうとする努力につながる。一方で,利用者の満足度を尺度にするという考え方もあるが,望まれれば何でも提供するだけでいいのかという点に疑問を感じている。図書館サービス全体の中で判断すべきことがあるように考える。

名古屋大学附属図書館の蒲生英博さんからは,「大学図書館における図書館評価」と題する報告をいただいた。
 大学図書館の「評価」の経緯について概略説明があった。1991年の大学設置基準の大綱化がひとつの契機となり,ここから自己点検評価が求められるようになった。その後,第三者評価の導入もあり,今回の法人化につながっている。法人化では「評価」が大学の資源配分に確実に反映されるという従来にはない仕組みが作りあげられた。こうした経過の中で,評価の標準化の取り組みがなされており,大学図書館における戦略的評価の実施,目標を実現するための適切な目標設定による達成度評価などのために「大学図書館における評価指標報告書Ver. 0」が作成された。今後は,こうした指標により,大学図書館が行ってきたサービスがどのような成果や効果をもたらしたかを説明することが必要になる。

長野県阿南高等学校司書の林貴子さんは,「学校図書館活動チェックリスト作成経過と活用」について報告された。
 学校図書館では1997年学図法改正を契機として「サービス」という概念が取り入れられたが,教育機関の中での「サービス」とはどんなものか,この概念の定着をめぐり,多くの議論がもたれてきた。学図研では97年,98年の大会の論議を経て,学校図書館の活動を測定する指標として活用でき,学校図書館サービスの改善や考える材料になりうるチェックリストを作成した。このチェックリストの利用状況を把握し,利用者が満足する図書館活動が行われているのか,学校側の問題,協力体制など,内容の検証を行うことが今後の発展のために必要である。

最後に,筑波大学大学院図書館情報メディア研究科の永田治樹さんには「図書館の顧客評価・成果評価」と題して,評価についての全般的な視点や課題等についてお話いただいた。
 まず,図書館評価の内容として,目的,主体,枠組み,レベル等の構成要素について紹介があった。次に,評価の視点として,顧客にとっての有用性に照らした判断である顧客満足と,顧客の期待水準と認知水準のずれを見るサービス品質がある。また,図書館の働きかけ(資源やプログラムとの接触)によって生じた利用者の変化,つまりアウトカムと言われる利用者の満足や不満がある。この内容がなにかを把握することによってアウトカムの測定が可能になり,そのことによって図書館の関与を主張することができるようになる。ただ,この場合に重要なのは,図書館の使命に照らした意味でのアウトカムであるかどうかという点にある。今後の課題としては顧客評価の調査手法のさらなる向上と,アウトカム測定の展望を開くことが必要である。

今回の研究大会は関心も高く,参加者は180名を数えた。

なお,大会予稿集の残部があります。ご希望の方は日図研事務局(06−6371−8739,月・木の13時〜17時)までご連絡ください。一部500円(送料別)です。

(文責・西村一夫)


参加者の感想から

〈個人・グループ研究発表について〉

〈シンポジウムについて〉