TOP > 大会・研究会等 > ブロックセミナー > 2010年度 > / Update: 2011.4.30
2010年6月12日(土),日本図書館研究会の主催により,「東北ブロックセミナー−著作権法の改正により広がる図書館の障害者サービス」が開催されました。参加者は23名。東北ブロックの会員の他,専門学校図書館司書,学校図書館司書,点字図書館の関係者が参加しました。障害者サービスに対する参加者の意識が高く,即実践するための具体的なサービス情報,資料リストの入手方法などの質問が多数よせられました。
国民読書年をむかえ,国をあげて読書活動を推進しようとする動きの中で,2010年1月から著作権法が一部改正され,公共図書館では「読む」ことに障害がある人に対して本や情報を届けるためのサービス範囲が広げられることになりました。これまで視覚障害者が対象とされていた著作物利用に係る権利制限が「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」にまで拡大され,これによって,大きな文字でなくては読めない弱視者や高齢者,文字を読むこと自体に障害がある学習障害者・発達障害者なども対象となります。さらに,点字図書館だけでなく公共図書館でも拡大図書,デジタル図書など,読むことに障害がある人にも,それぞれ必要とする方式での作成・貸出しができるようになります。
梅田ひろみ氏には,「著作権法の改正について−読むことに困難を持つ人々との関わりを中心に−」という演題で,著作権法改正の要点を解説していただき,「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」や「障害のある人の権利に関する条約」についてもお話いただきました。また,視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある方々に対して点字,デイジーデータをはじめ,暮らしに密着した地域・生活情報などさまざまな情報を提供するネットワーク「サピエ」 による「サピエ図書館」をご紹介いただき,障害者がインターネットを介したデジタル情報を利用する方法の多様生について学ぶことができました。
山内薫氏には,「誰に何をどのように提供できるか?−障害者サービスの様々な取り組み−」という演題で,墨田区立図書館の障害者サービスの実践について紹介していただきました。高齢者に向けた大きな文字の資料・情報,知的障害者がマルチメディアDAISY図書をどのように利用しているか,ろう学校高等部の学生の図書館でのインターンシップの様子など,実際の図書館活動の中から,現在とこれからの障害者サービスの可能性を示して下さいました。また,著作権法第43条により,図書館では「読む」ことに障害がある人に対して,一次資料の変形や翻案が認められるようになることを指し,「読む」ための障害は一様ではなく,一人一人が利用できる形での資料提供が今後,図書館にとって大きな課題になるであろうと教えていただきました。
以上のように,本セミナーでは,著作権法の一部改正の要点を学ぶとともに,「読む」ことに様々な障害を持った方々に対して,図書館が果たすべき役割を具体的に考えるよい機会になりました。
注 1)〈https://www.sapie.or.jp/〉[確認:2011.3.27](文責:鈴木 史穂 福島県立安積黎明高等学校図書館)