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日本図書館研究会 九州ブロックセミナー報告


日 時:
2006年5月22日(月)10:30〜16:00
会 場:
大野城まどかぴあホール(福岡県大野城市)
講師・パネリスト:
糸賀雅児氏(慶應義塾大学)
山口源治郎氏(東京学芸大学)
テーマ:
「現代社会において公立図書館の果たすべき役割は何か」

報告

 2006(平成18)年5月22日(月)午前10時30分から午後4時まで福岡県大野城市(大野城まどかぴあ)で九州ブロックセミナーが開催されました。九州各県を中心に公共図書館・大学図書館の関係者,ボランティア,市民など100名を越す参加者がありました。

 まず,永利和則評議員が開会の言葉を述べ,山本昭和理事が挨拶をしました。今回は,テーマを「現代社会において公立図書館の果たすべき役割は何か」として,山口源治郎,糸賀雅児の両氏にそれぞれの視点から,いま公共図書館について,考えるべきこと,改革すべきことについてお話しいただきました。

 山口氏は,現状を自治体の「市場化」の中で図書館の「公共性」が問われている状態であるとして,公共図書館における公共性の原理とあるべき姿についてあらためて整理されました。そして,現在の公共図書館の活動が,住民から「この図書館は私のことを考えている(意識している)」と感じてもらえるようなはたらきとなっているのか,という視点から,〈人と人とのつながりをつくり出す空間〉であり,〈地域の問題を解決する場〉,〈地域の歴史(帰属意識,共同意識)を共有する場〉,〈公論を形成する場〉である,真の公共空間としての図書館への再構築を通じた,図書館と利用者(住民)の関係性の問い直しの必要を説かれました。


 さらに,このことをふまえた上で,現在の公立図書館の管理形態の問題に臨み,福岡県下の現状をおもな事例としながら,業務委託,PFI,指定管理者制度等の導入の状況について,図書館員の雇用の「標準」化,図書館行政の変質など,導入後の変化や影響,問題点等を分析されました。

 続いて糸賀氏は,指定管理者制度の導入で問われていることとして,(1)公務員(地方公共団体)の仕事に対して総じて批判的な現状,(2)民間事業者のほうが〔コスト/パフォーマンス〕の点において公務員に優ること,(3)大半の住民の図書館への関心が低く,多少サービスの質が落ちても安く済むならば民間でよいと考えられていることをあげ,もし図書館への指定管理者制度導入に反対するならば,一部の図書館愛好者や図書館関係者だけでなく,上記のような批判をもっている一般市民に理解してもらえるような論理でなければならないこと,公立図書館が今後も住民に支持されるためには新たな専門的業務の創出が不可欠であり,それは図書館資料への付加価値を高め,課題解決型の図書館,役に立つ図書館へと変わっていくことであって,その結果,図書館が真に「地域の情報拠点」としての役割を果たさなければならないことなどを説かれました。

 午前・午後にわたる両講師の熱のこもった講演の後,会場からの質問に答える形で参加者を交えた応答となり,活発な意見交換がなされました。指定管理者制度により運営されている北九州市立図書館の状況について,現館長からの説明があり,また図書館の「課題解決型」支援機能を高めるための図書館員としての個々の課題についても,図書館の現場での具体的な問題点をあげて,質問と助言が交わされました。

 参加者からのアンケートでは,回答をいただいた76名全員が「大変良かった」「良かった」という結果でした。また,「身近な問題点をあらためて考え直すことができた」「もっと早くこのような話が聞きたかった」「自分自身がこれから何をすべきかがわかった」「ひとつのテーマについて2人の講師がそれぞれ違う考えかたを提示されたので,幅広い話が聞けてよかった」「これまで専門の先生がたのお話が聞ける機会があまりなかったので,とてもよかった」など,好評が多く寄せられました。

 今回のセミナーが,参加各館,特に地元福岡県下の各図書館においては,今後の前進のための大きなステップのひとつとなることを実感しました。福岡でのブロックセミナーの開催について,これまでご協力・ご尽力いただきました皆様に,あらためて御礼を申し上げます。

(文責:伊東達也 春日市民図書館)