TOP > 奨励賞 > / Update: 2019.2.5
図書館研究奨励賞は,毎年度『図書館界』の3号(9月1日号)からさかのぼって,2年間に発表された「論文」と「現場からの提言」の中から優秀作に,それは若手あるいは中堅の書き手の方に差し上げています。この賞は,選考委員会と会員の皆さまのご協力によって決めることになっています。昨年『図書館界』5月号に,通年度に関して報告するとともに2017年度の奨励賞事業についてご説明しました。11月号には12月18日(月)を締切に会員の皆さまに自薦,他薦をお願いしました。しかし,今年度は会員の皆さまからのご推薦はありませんでした。
この賞の選考委員会は,第1回理事会で,前川和子を委員長,常世田良を担当理事に選任し,委員長,担当理事を通じて委員を志保田務,嶋田学,日置将之各氏に委嘱し,就任承諾を得ました。
上記に範囲指定したように,今年度対象は,2015年11月号(67巻4号)から2017年9月号(69巻3号)です。ここに収録された「論文」「現場からの提言」は,前者11本,後者3本,計14本でした。うち昨年度授賞作1本,研究歴のある方の著作7本,筆頭者が選考時会員で無い方などを除きました。研究歴のある方というのは,例えば論文で「謝辞」にお名前が掲載されている方,教授,名誉教授などです。結果「論文」3本,「現場からの提言」1本,計4本が対象作となりました。選考委員は1月初めに,対象になった4本の評価を担当者に提出し,そのあとメール上で議論し,1月末に合意に達しました。これを2月4日の理事会に提出し,承認されました。
2017年度の奨励賞授賞は,論文「日本の公立図書館長に求められる能力に関する調査」(68巻6号)を書かれた毛利るみこ氏に決定いたしました。(この論文は,毛利るみこ氏と大庭一郎氏との共著ですが,共著の場合は筆頭者に授賞することになっていますので,毛利るみこ氏を対象者と致しました。)「毛利論文」の優れた点は,当論文のような公立図書館長に関して詳細に研究・調査したものが,現在ほとんど存在しないこと。しかし,喫緊のテーマの一つであることです。他では得難い貴重なデータが示されており,現役の館長や館長に就任したばかりの方などにとっては有益な内容となっています。極めて多様な質問によってその意識や状況を調査し,その結果を,非常に多角的な視点で分析している点において高く評価できます。特に,館長の出自,経験,資格の有無等と,都道府県立か市区町村立かといった図書館規模ごとに,管理能力について考え方や図書館の専門性についての意識など,多層的,重層的分析を行っている点が極めて興味深いです。例えば,館長の出自,個々人の属性(行政職出身か,民間出身か)は,図書館情報学プロパーでは,従来あまり射程に入れていなかったものが含まれています。館長としての素養,重視事項の多様性への配慮について,高く評価されました。実は,毛利氏は昨年度奨励賞の対象になった論文がありました。「日本の公立図書館長に求められる能力」というもので,『図書館界』66巻5号に掲載されています。この論文は,図書館長に関する過去の文献を丁寧に集めまとめていました。これまでの相当量にのぼる館長論を読み込み,整理した作業,館長に求められる能力,知識技術,態度の3つの面で一覧に整理していました。評価されましたが,受賞には及びませんでした。この論文の上に,今回実際の調査がなされ,より完成度が高いものと評価されました。
一方,問題点ですが,質問項目の設定についてはもう一工夫して頂きたい,統計的処理が単純で,もう少し突っ込んだ分析をされていれば,更に有益な情報も示せたのではないか,と思われます。とはいえこの欠点を補う程に,この研究の必要性,政策上の有用感を評価,その上で今後への期待・希望を委員は持っております。
なお,今回選に洩れた方の再挑戦を,また,新たな意欲的な方々の奨励賞への挑戦を期待しております。
そして,最後に,現場で図書館実務に意欲的に従事し,その中から課題意識を持って取り組んだ業績がもっと出てきてほしいと選考委員一同願っております。
(2017年度日本図書館研究会図書館研究奨励賞選考委員会:委員長・前川和子,担当理事・常世田良)
(本報告は『図書館界』70巻1号に掲載)