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《座標》
『図書館界』70巻5号 (January 2019)

学校司書はナニスル「人」ぞ!?〜「職」の専門性と雇用待遇に思う

狩野 ゆき

  本稿執筆時の現在は「会計年度任用職員」問題が佳境である(2018.10)。この問題は学校司書に
 限るものではないのだが,一人職場であることが多い学校司書にとっては,より深刻である。(学校司書
 も教職員「チーム学校」の一員であるから一人職場ではないという意見もあり,それはそうなのだが,司
 書教諭もほとんどが兼務の状態で,学校図書館という持ち場の専門職員としてはやはり「一人職場」とい
 う考え方が大勢であろう。)
  2014年の学校図書館法改正による「学校司書の法制化」から,2016年の文部科学省の「学校司書
  のモデルカリキュラム」と,いろいろ学校司書が取り沙汰されているが,決して追い風とはなっていない。
 「学校司書」の文言は法律には明記されたが,必置義務ではないので,各自治体の対応は千差万別である。
 数だけを見ると増えているが(高校は減っている),「やりがい搾取」と言われる低条件での雇用が大半で,
 薄く広く配置されていっている。条件がよくないので資格を問うことすらできないところもあり,いくら募
 集をかけても必要数を満たす応募がないところもあり……と聞く。
  それにさらに追い打ちをかけるのが「会計年度任用職員」問題である。2017年の地方公務員法と地方
 自治法の「改正」によって,これまでの臨時・非常勤職員が「会計年度内で雇用する」職員とされ,雇用期
 間を一年以内と定められた。また,総務省の「会計年度任用職員制度の導入に向けた事務処理マニュアル」
 (2018.10改訂第2版)でも,今までの特別職非常勤職員から一般職へ移行すべき職の例として「図
 書館職員」が挙げられている。
  会計年度任用職員にはフルタイムとパートタイムがあり,正規職より1時間でも短ければパートタイムと
 される。現在,特別職非常勤職員の学校司書がパートタイムの会計年度任用職員に移行される公算が大きく
 なっている自治体もある。
  パートタイムの会計年度任用職員とは「フルタイム勤務とすべき標準的な業務の量」がない職で,「相当
 の期間任用される職員を就けるべき業務」ではない職ということである。学校司書の仕事が業務量も少なく,
 業務内容も継続によるスキルアップは必要ないものだと規定されるということだ。雇用条件は労使交渉で改
 善されるかもしれないが,学校司書の職の性質がそう規定されるのはいかがなものか。
  学校内に一人しかいない,全校児童生徒に関わり全授業にも関わる学校図書館の専門の「職」がそんな一
 過的にこなせる仕事であろうはずはない。2016年に文科省が出した「学校図書館ガイドライン」にも,
 学校司書は「学校図書館を運営していくために必要な専門的・技術的職務に従事する」とある。文科省と総
 務省の管轄違いとは言え,そんな齟齬があっていいのか。
  「学校司書のモデルカリキュラム」に則った授業を開講する大学も増えてきた。しかし,どんなに学んで
 も出口に生涯をかける仕事としての受け皿がない……。いつか正規になれるかもと実践を積み,自腹で自己
 研鑽に努めてきた現職者も頭を打たれてしまった……。
  「働き方改革」で「同一労働同一賃金」と厚生労働省は旗を振っている。ところがどっこい,学校司書は
 同一自治体で正規の常勤職員とパートタイムの会計年度任用職員が存在することになる。最悪のシナリオは,
 正規の後はパートタイムの会計年度任用職員に差し替えて,将来的には正規の学校司書は「ゼロ」に……
 (それを狙っているのか,怖い怖い)。
  2020年4月の施行に向けて,2019年には募集も始まる。そのため,2018年末ないし2018
 年度末が各自治体で会計年度任用職員のあれこれを決定するための交渉のリミットだそうだ。すでに特別職
 非常勤職員の学校司書は2020年3月までと宣告されたところもある。
  現在の低条件の学校司書にとっては会計年度任用職員となることで待遇がよくなるところもないではない。
 しかし,学校司書とは何をする「職」なのか,その専門性を発揮するためにはどのような待遇が適している
 のか,を考えることなく「人」が配置されていくことに懸念を強める。前向きな気持ちで新年度を迎えられ
 ることを切に願う。

(かのう ゆき 理事・灘中学校灘高等学校)