TOP > 『図書館界』 > 70巻 > 3号 > 座標 / Update: 2018.9.6
2018年4月に,「第四次子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」が策定・公表された。この 計画は,2001年12月に公布・施行された「子どもの読書活動の推進に関する法律」(以下「読書 推進法」という。)第8条1項の規定に基づき,2018年から概ね5年にわたる国による子どもの読 書活動推進に関する基本方針や,具体的方策等を明らかにしたものである。 2002年に第一次計画が策定されて以来,4度目の策定となる今回の計画では,第三次計画期間(2 013〜2017年)における成果や課題,諸情勢の変化等を踏まえ,新たな方針や方策等を定めている。 その内容は家庭,学校,地域,民間団体等多岐に及んでいるが,図書館についても多くの分量が割かれて いる。具体的には,公立図書館の役割や整備の必要性について言及しているほか,子どもの利用スペース 設置,障害のある子どものための諸条件整備,資料の充実,関係機関との連携・協力,専門職員の配置等, 幅広い内容になっている。 また,公立図書館だけではなく,国立国会図書館や大学図書館,学校図書館にも言及している。なかで も学校図書館については,学校図書館法改正や学習指導要領の改訂等による社会情勢の変化を踏まえ,そ の役割や資料・設備の整備充実のほか,司書教諭や学校司書等の配置といった人的体制構築の必要性にも 言及しており,特に紙幅を割いている。 すでに最初の計画策定から15年以上が経過しているが,計画の内容を確認している方はどのくらいお られるのだろうか。子どもの読書活動に関心のある方で,まだ読んだことがない場合には一読することを お勧めしたい。 この計画では,様々な統計データ等を引用して子どもの読書活動を取り巻く現状や課題を分析し,方策 等が示されている。そのため,この計画を読めば,わが国の子どもの読書活動の現状を概観することがで き,具体的な取組みに関する情報も得ることが可能である。子どもの読書活動の推進に携わっておられる 方には,活動を進めていく上での何らかのヒントが得られるのではないかと思われる。 また,読書推進法では地方公共団体に対し,国の計画や地域の状況等を踏まえた推進計画の策定に努め るよう規定している。国の計画では地域の実情は反映されていないが,地方公共団体の計画では地域の状 況に即した内容になっていることが多いため,計画を読めば地域の子もの読書活動に関する現状等の情報 を得られる可能性が高い。また,計画内容の充実度から,計画の策定主体である都道府県や市町村の子 もの読書活動推進に対する考え方や姿勢をうかがい知ることも可能である。 ただ,地方公共団体の計画策定は努力義務であるため,未策定の公共団体も一定程度存在している。文 部科学省が2018年3月に発表した「平成29年度『子供の読書活動推進計画に関する調査研究』調査 報告書」によると,都道府県100%,市89.9%,町63.6%,村54.1%の策定率となってお り,特に町村では策定が進んでいない状況である。 冒頭で紹介した国による第四次計画では,市の策定率を100%,町村は70%以上にすることを目標 としているため,今後は未策定の市町村に何らかの働きかけがなされると考えられる。これにより,新た に計画を策定する市町村も出てくると思われるが,やはり策定するからには,充実した内容の計画にして 欲しいところである。上述した文部科学省の報告書では,計画策定に際しての課題や具体的な策定手段等 の調査結果も報告されており,大変参考になる内容となっている。また,すでに計画の先行事例が多数あ ることから,様々な先例の優れた点を自身の計画に取り入れることも可能であろう。このように,現在は 非常に計画を策定しやすい状況になっていると言える。 これから計画を策定する市町村には,おざなりの計画ではなく,子どもたちが無理なく読書に親しめる ような環境を醸成できる,充実した計画の策定を期待したい。
(ひおき まさゆき 理事・大阪府立中央図書館)