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《座標》
『図書館界』70巻2号 (July 2018)

上海との学術交流を振り返って

櫻井 待子

  2017年11月18日・19日の2日間,京都で第12回国際図書館学セミナー(以下,国際セミナー)
 が開催された。第1回は2001年で,3年を1つの周期として開催しているので,この周期を6回繰り返
 したことになる。
 
  中国上海と日図研との学術交流は,「上海市図書館学会と本会の学術協定について」(1999年10月
 10日理事会決定。以下,学術協定)にもとづき行われてきた。さらにさかのぼれば,塩見昇理事長と呉建中
 上海図書館副館長(いずれも当時)との親交に端を発し,やがて「たんなる人の交流だけでなく,いっそう継
 続的な交流の方法として,おのおのの機関誌の論文を相互に乗り入れる」という具体案のもと,上記の学術協
 定の締結に至った。
 
  学術協定は日図研HPにも掲載されているが,その内容は,上海市図書館学会と日図研がそれぞれ相手誌から
 毎年10本以内の論文を選び,無料で自誌に掲載することができる,そして,学術シンポジウム等の事業を
 共同で行うことができる,という2つの柱から成っている。この協定にもとづき,本誌2001年5月号に
 最初の翻訳論文が掲載され(劉,馬2000),同年11月と12月には上海『図書館雑誌』に渡邊隆弘氏
 の論文(翻訳)が掲載されて,学術交流がスタートした。近年では2011年から2012年にかけて「シ
 リーズ・新中国図書館の60年」と題して本誌に上海の翻訳論文を5回にわたり掲載しており,上海『図書
 館雑誌』にも数年おきのペースで川崎氏,山口源治郎氏,赤澤久弥氏の論文などが掲載されている。
 
  共同事業に関しては,2000年10月の理事会で「国際交流プログラム(基本案)」が承認され,「図書館・
 図書館学についての諸側面について相互理解を深める」ため,3年間を1つの周期として相互に発表者を派遣
 するという,国際セミナーの土台となる方針が決定した。そして2001年10月に上海で第1回国際セミナ
 ーが開催され現在に至っているのは,会員諸氏ご承知のとおりである。
 
  前置きが長くなったがこの学術協定の締結は,塩見氏,呉氏のみならず,同様に上海と交流を深めてこられた
 川崎良孝事務局長(当時)の尽力によるところが大きい。また『界』への翻訳掲載には,編集委員会により論文
 の選定や翻訳の準備・調整が行われ,国際セミナーでは,渡辺信一国際交流担当理事(当時)が第1回から
 第4回までを担当されて,現在の国際セミナーを形づくってこられた。論文を介した学術交流と,図書館関係者
 同士の直接の交流が営々と続けられてきたことは,日図研に新しい刺激と広がりをもたらしたといえるだろう。
 
  これまで何度か論文の翻訳をさせていただく機会があり,国際セミナーにも参加したことがある者としてこの
 学術交流を振り返ると,上海図書館の活動は常に先進的で,インターネット社会に即応したサービスを展開し
 てきている印象がある。また近年では,資料や情報の電子化と世界への発信に関してめざましいものがあり,
 図書館のこれからを考える中で,ともに学び,進んでいきたいものである。
 
  一方では,文献を翻訳しながらも,書き手の意図を完全には理解しきれず,セミナーで講演を聞いても何かし
 ら疑問が残ることもあった。地理的にも近い東アジアの国同士であるためか,自身の物差しで考えてしまい,近
 いがゆえに文化的背景の違いの大きさを感じることになった。しかし,文献を読む,人と交流する,これを繰り
 返すことで,違いも含め少しずつ理解を深めていけるのが,この学術協定の良いところであるとも思う。
 
  昨年の国際セミナーで呉建中氏は,これまでのセミナーが非常に学術的かつ友好的に開催されてきたことを
 喜ばれ,若い人たちがこれまでの協力と友好を土台として,さらに前進されることを信じていると挨拶され
 た。学術協定が結ばれてから20年近くが経とうとしており,日本・上海ともに状況が少しずつ変化してい
 く中ではあるが,友好的な関係が今後も続いていくことを願うものである。

(さくらい まちこ 理事・国立民族学博物館)