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《座標》
『図書館界』69巻3号 (September 2017)

知的障害のある人の図書館利用

前田 章夫

  あなたの図書館では知的障害のある住民の利用はありますか? もしかしたら気が付かないところでひっ
 そりと利用されているかもしれません。
                  ◇     ◇     ◇
  これまで図書館界では,知的障害のある人は文字の理解が困難との思い込みから,図書館利用は無理だろ
 うと思われてきた。だから知的障害のある人へのサービスはほんの一部の図書館で施設への訪問貸出などが
 行われるにすぎなかった。しかしそのような思い込みが間違いであることを教えてくれる調査結果が最近明
 らかになった。
  知的障害者・自閉症者への「LLブック」の製作などに精力的に取り組まれている藤澤和子氏(大和大学保健
 医療学部)が,2016年9月〜11月にかけて全国手をつなぐ育成会連合会の協力を得て,全国の知的障害
 者の公共図書館の利用状況やニーズの実態調査を実施された。そしてその結果の概要が2017年2月に手を
 つなぐ育成会連合会へ報告された。以下,報告の概要を簡単に紹介する。
  調査は協力が得られた1,100人の知的障害者と家族を対象に育成会を通じて質問紙を配布し,当事者本
 人ないしは家族・支援者が本人に聞き取って記入されたもので,有効回答数は604件(55%)と,この種の
 調査としては前例のない回答者数となっている。回答者の72.1%が20〜40歳台の成人であり,子どもは
 9歳以下が8人,10〜19歳が70人である。性別では,男性が391人,女性196人,無記入17人と
 なっている。障害の程度は,より重度の療育手帳Aが274人,Bが269人,その他・無記入が61人である。
  注目されるのは,回答者604人中428人(70.8%)が公共図書館の利用経験があると回答しており,ほ
 ぼ毎日という人を含め,188人(31%)が月1回以上の頻度で公共図書館を訪れていることである。
  また『図書館でしたこと』という質問では,「本や雑誌を読む」「本やDVD,CDを借りる,返す」「DVDやCDを
 見る,聞く」などの利用が多く,回答者の年齢からして「読み聞かせやおはなし会への参加」はそれ程多くない。
  次に『図書館で困ったこと』という質問では,「読みたい本がどこにあるかわからなかった」「読みたい本や
 雑誌がなかった」「聴きたいCDや,見たいDVDがなかった」が上位を占めており,「困った時,質問できる人が
 いなかった」「本やCD,DVDを借りる方法がわからなかった」などが続いている。
  さらに『図書館への要求』という質問では,「わかりやすい本がほしい」「読みたい本を探すのを手伝ってほ
 しい」「困った時に質問できる人がいてほしい」が上位を占めており,「デイセンターや仕事をする場所で図書
 館の本を借りたい」「本を借りたり,返したり,予約することを手伝ってほしい」などが続いている。多くの人
 が何かわからない時に手伝ってくれる人を求めていることがわかる。
  なお利用経験のない人を対象とした『図書館に行ったことがない理由』を尋ねる質問では,「行ってみたいが
 一人では行けない」「本や雑誌を読むことに興味がない」「図書館の場所は知っているが,家から遠い」「図書
 館を知らない」「図書館のある場所を知らない」が上位を占めている。
  これらの結果から,知的障害のある人が図書館を訪れていることは確かなことであるが,図書館を知らない人
 への対策を含め,現在の公共図書館には知的障害者の利用を支えるための人的支援を含む利用環境の整備が進ん
 でおらず,また知的障害者に対する理解不足があるために利用しにくいものになっていることは明らかである。
                  ◇     ◇     ◇
  障害者差別解消法が2016年4月から施行され,公共図書館においても障害のある人への配慮あるサービス
 が求められている。現在一部の図書館で行われている作業所等への配本サービスの他に何が出来るのかを考えた
 い。また成人の知的障害者には,彼らの生活年齢に合ったやさしく書かれた本が必要であるが,公共図書館には
 ほとんど備わっていないのも現状である。まずは自館の蔵書の点検から始めるとともに知的障害という障害がど
 ういう障害なのか,正しい知識を得る努力が求められる。

(まえだ あきお 理事長)