TOP > 『図書館界』 > 69巻 > 1号 > 座標 / Update: 2017.4.30

《座標》
『図書館界』69巻1号 (May 2017)

「連携」をめざすヒント

前川 敦子

 本号で特集されている2016年度図書館学セミナー「高齢社会と図書館」,及び2017年2月の研究
 大会シンポジウム「図書館の連携サービスを考える」では,いずれも図書館と他部署・他機関との連携を
 キーワードの一つとして議論が行われた。
 
 知のあり方が急激に変化しつつある環境の下,図書館が果たすべき役割については,さまざまな指摘や論
 議,意思表明がなされている。例えば大学図書館では,国立大学図書館協会が2016年に「大学図書館
 機能の強化と革新に向けて:国立大学図書館ビジョン2020」を公表し,大学図書館のミッションの再
 確認と共有化が試みられている。
 
 一方,そうした環境の下で求められる図書館及び図書館員の役割,特に変化に応じた新たな役割について
 は,現実に限られた予算とマンパワーの下,どこに重点を置き何から着手するのか,どのように必要な知
 識やスキルを獲得・育成するのか,そして業務に関わる図書館以外の機関や人々とどう連携するのかは,
 個々の現場での課題として取り組むことになる。例えば高等教育改革の中で大学図書館に求められる「学
 習支援」機能を考えたとき,(異なるケースもあろうが),大学の教育,授業や課題,あるいは学内の教
 育施策の動向や課題についての情報が,図書館にスムーズに入ってくるわけではない。教育系の会議メン
 バーに図書館が含まれないことも多い。学習支援の一翼を担うことを図書館が意図しても,学内的な認知
 や連携体制をどう作ればよいのか,という声がある。
 
 今回のセミナーやシンポジウムでは,大学図書館に関する事例が直接扱われた訳ではないが,こうした悩
 みに対する示唆を得ることができた。
 
 一つは,図書館を中心に考えるのではなく,組織や機関のミッション・目標を実現するため,市民(や組
 織の構成員・サービス対象者)のニーズに応えるために図書館が何をできるのか,どのように支援・寄与
 できるのかという視点で考えることである。共通のミッション・目標に基づいて,ポリシーや方針が策定
 されること,あるいは紐づけて説明できることが一つの鍵であることが強調された。また図書館が一方的
 にサービスを提供するのではなく,対象者と双方向にサービスをともにつくる視点が重要であることも述
 べられた。
 
 もう一つは,地道な人間関係の形成やコミュニケーションが重要という点である。セミナー討議では,呑
 海沙織氏から「図書館に何ができるのかを客観的に,情熱だけではなくエビデンスを示しながら説明でき
 る」「エレベータートークができる,そのためには短く伝える能力と度胸,そしていつもそのことについ
 て考えていること」の大切さが指摘された。また舟田彰氏から「図書館の有用性,強みをきちんと話すこ
 とで,図書館を知っていただいた」という発言があった。組織的な方針策定や体制が必要である一方,興
 味や共感を持ってくれる人との関係がその土台になること,そのためには,図書館に何ができるのかを常
 に簡潔に説明できる力が必要であることを改めて感じた。
 
 以前,筆者たちが学習支援に関して教員組織と連携する方法を模索していた際,ある先生から,こうすれ
 ばOKという定石はない,まずは関心を持ってくれそうな教員を見つけて一人一人アプローチし,地道に協
 力関係を作り,徐々にクリティカル・マスを目指すようにとアドバイスいただいたことがあるが,そのこ
 とと重なる視点であった。
 
 また舟田氏の「向こうにメリットがある,いいものを持たせてあげる」という姿勢を持つことが述べられ
 た。これは研究大会での「連携は難しい。相手に無理強いしない。(相手の)困っているところに図書館
 が役に立てば継続できる。仕事の上乗せになるなら持たない。」という常世田良氏のコメントとも共通し
 ていた。必要だから,有意義なことだからという気持ちが優先し,結果的に相手に負担を感じさせること
 はありがちで,気をつけたい。
 
 異なる館種・主題に関する実践ではあっても,共通する考え方を得ることができた。それぞれ所与の状況
 の中で課題に取り組むにあたって,大切にしたい。

(まえかわ あつこ 理事・三重大学附属図書館)