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《座標》
『図書館界』68巻5号 (January 2017)

図書館と著作権についての「残された問題」

南 亮一

 当研究会では昨年度,「図書館に関係する著作権の動向2015」をテーマとして図書館学セミナーを開催した。88名の方々がご参加くださったこと,また,当日の会場からのツイッター中継のまとめページへのアクセス数の多さ(執筆時点で8,214view)から,図書館の活動と著作権との関わりについての関心の深さがうかがえた。

 ただ,このセミナーで取り上げた「著作権の動向」は,まさにこの時期に採択が取り沙汰されていたTPP(環太平洋パートナーシップ)協定との関係,国内外で目覚ましい進捗が見られたデジタルアーカイブ関係と視覚障害者等の情報保障関係についての動向であった。いずれも動きがあるテーマであり,これらをまとめて聴けることはあまりないので,それはそれで開催の意義はあったとは考える。ただ,これらのテーマが「図書館と著作権」のメインかと尋ねられると,そうではないと言わざるを得ないことも事実である。

 私はありがたいことに,各地の図書館や図書館関係団体の方々などからお声掛けをいただき,研修の講師を務めさせていただく機会がある。その際に担当の方と相談した上で取り上げるべき内容や事前に取っていただく質問の内容の多くは,最近では表紙の利用やお話会などのイベント関係のものも増えてはいるが,やはり複写サービスがメインである。

 それだったら複写サービスと著作権に関する動向を取り上げたらよいではないか,ということになる。実際,このセミナーの企画立案の際にも挙げたことがあったが,結局取り上げないこととした。その理由は単純なもので,進展が見られないからであった。

 最近立て続けに,図書館と著作権に関する最近の動向について執筆する機会を得たので,そのための資料に当たってみると,まとまった内容で公表されているものとしては,国公私立大学図書館協力委員会大学図書館著作権検討委員会による「Q&A」と全国公共図書館協議会ウェブサイトに掲載されている「ニューズレター」に収録されている「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」という記事ぐらいしかないことがわかった。

 ちなみに,この「図書館における著作物の利用に関する当事者協議会」とは,2000年ごろからの文化庁における図書館等における著作物等の利用をめぐる著作権制度の改善に関する検討の際の,権利者団体と図書館団体との非公式な協議の場を元に2004年に設けられたものである。2006年に著作権法第31条に関する2つのガイドラインを,2010年に「著作権法第37条第3項の適用に関するガイドライン」が策定されるといった成果を上げてきたこの協議会であるが,それ以降は具体的な成果が見られない。

 この協議会では,これまでの検討が著作権法における権利者の権利を制限する規定の柔軟な運用など,図書館側の要望に沿った検討が行われてきたことから,2011年頃から,著作権法第31条第1項の図書館における確立されてきた運用,すなわち「発行後相当期間」および「著作物の一部分」の解釈についての「改善」要望についての協議が行われることとなった。ところが権利者側から示された「改善」内容が現状とかなり乖離していたこともあり,議論が平行線を辿ってしまったため,2013年5月の会合において,改めて双方から要望が出されたものの,著作権法第31条の範囲を超える複写についてのより簡便な包括許諾制度の構築について検討を継続することとされたほかは進展が見られず,会合自体もこの年の12月以来,開かれないままとなっている。

 さらに,この6月,学術出版物の複写に関する著作権等管理事業者であるJCOPYにより,大学図書館と締結していたILLサービスに関する利用許諾契約を更新しない旨の通知がされた。

 このように,ここ10数年培われてきた権利者団体との信頼関係を揺るがせるような状況が続いている。このような状況を受け,11月の図書館総合展において「残された紙の残された問題を解決する」と題するフォーラムが開かれ,この状況についての理解の共有と今後の解決策についての議論が行われた。我々も,この「残された問題」について考えるべきときなのではないだろうか。

(みなみりょういち 理事・国立国会図書館関西館)