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《座標》
『図書館界』67巻6号 (March 2016)

教科書執筆から思うこと

渡邊 隆弘

 周知の方も多いと思うが,目録法の世界は「FRBR(書誌レコードの機能要件)」(1997)の概念モデルを基盤とした再構築がめざされ,新たな「国際目録原則」の発表(2009),「AACR2(英米目録規則第2版)」に替わる準国際的な目録規則「RDA(Resource Description and Access)」の刊行(2010)と北米等での本格適用(2013〜)など,激変があった。『日本目録規則』(NCR)も,筆者も所属している日本図書館協会目録委員会と国立国会図書館収集書誌部との共同作業で,2017年度完成をめざして条文案の部分公開等を行っている最中である。

 ここでいきなり私事にわたってしまうが,2015年の夏から冬にかけて,「目録法」「書誌コントロール」の2章を分担執筆している某社の「情報資源組織論」教科書の改訂作業に取り組んだ。執筆時期でいうと,最初に担当したのが2006年で,2010年に科目名変更の衣替え,そして今回の改訂と,10年間で3度の執筆・見直しを行ったことになる。

 執筆にあたって,演習科目も含め司書課程に求められる目録法の知識とは,日本の標準規則である『日本目録規則』(NCR)に基づくデータ作成の基本を理解することと,その背景にある基本的な概念や考え方を理解すること,とイメージしている。その点からすると,今回の改訂タイミングは,目録法の章には対応が難しい。原理原則や海外の規則は変わってしまっているのだが,演習で用いるNCRは当面そのまま(1987年版)なので,基本概念は従来型で説明せざるを得ない。2010年の執筆時にも既に問題は部分的に生じていて,従来型の基本概念の説明,NCRの概説の後に,「新しい目録法の動向」の節を設けて「国際目録原則」などを紹介した。今回はRDA等が加わって最終節が10ページを超えるものとなる見込みである。説明を混在させるよりはと最善の措置をとったつもりだが,最後になって話が覆される印象もあり,教える側を含む読者の方々に負担を強いるだろうという申し訳ない気持ちもある。

 これは当然,過渡的な問題である。次に改訂を行う際は,FRBRモデルを基盤とした新しいNCRに最初から焦点を合わせた説明を行うことになる。今回の作業を行いながら,次回もご指名を頂けるかはわからないのでやや不遜ではあるが,次回はどんな説明の設計にすべきかと考えることがあった。

 考えてみて,これはそう簡単ではない難しい問題だ,ということに気付いた。新しい目録法について書いたり話したりする機会がそこそこあるが,対象は常に図書館の,つまりNCR等をある程度ご存じの方である。これまでの仕組みとどこまで同じで何が違うのか,という説明になるので,教科書の最終節と基本は変わらない。筆者だけの事情ではなく,国内外でいくつか出ているRDAの解説書も,ウェブ公開されている講習会資料等も,カタロガーの再教育を主目的としていて,まっさらの状態からどう説明するかの参考にはならない。

 具体的な案はなおゆっくり考えたいが,要は何を捨てて何を残すか,ということだろう。コンピュータ目録になって久しいが,従来の目録法の枠組みは1960年代に確立されたので,カード目録の仕組みを説明しないと基本概念が理解できない部分があり,私も一定の比重でカード目録の説明をしてきた。その制約が半世紀ぶりに動くとき,新しい目録法でも本質的なものとして何を残し,新概念と接合させるのか。歴史的には重要な概念であっても,漫然と残しては新規事項が加わってオーバーフローしてしまう。組織化の本質を正しくとらえて,新しい「基礎」を精選するセンスが問われるのだと思う。

 規則に縛られる度合いの高い組織化分野の特性が影響しているが,こうしたことは他の領域でもあるのではないか。他の科目の授業にあたって,教えるべき事項の選択に悩むことはある。もちろん新しいことだけで済むわけではなく,不変のことも多くあるが,今の,あるいは今後の図書館に不可欠なことは何か,を問い続けないと「詰め込み」になってしまう。あるいは教育だけでなく,実務にも言えることなのかもしれない。

 他のことはともかくとして,新しい枠組みが生まれる時代に立ち会う巡り合わせを生かして,目録法については引き続き考えてみたい。

(わたなべ たかひろ 理事・帝塚山学院大学)