TOP > 『図書館界』 > 67巻 > 5号 > 座標 / Update: 2016.1.6
神奈川県海老名市で10月1日,CCCとTRCの共同事業体を指定管理者とする中央図書館が開館した。この図書館の選書に関する報道が,各方面でしきりになされている。選書リストを教育長が事前にチェックしたにもかわらず,海外の風俗店を紹介した本など,「不適切」な本が蔵書として購入されたとの報道である。
図書館の選書を教育長がチェックすることは,図書館行政のあり方としては異例である。「館長は,館務を掌理し…」(図書館法第13条)とあるように,選書は図書館長の権限に属する事項だからである。また,図書館の選書に教育長が干渉することは,広い意味での検閲に相当する可能性があるからである。
教育長が事前にチェックした理由は,同じCCCを指定管理者とする佐賀県武雄市図書館が2013年に開館したとき,Windows98の使い方の本や,埼玉県のラーメン店を紹介する本などを購入したからである。そして海老名市でも,サラダおろし器を付録とする本や,すでに休刊している雑誌などが,購入されようとしていたからである。
市長の定例記者会見資料(10月30日)によれば,海老名市では今後,CCCおよびTRCの複数司書を構成員とする選書委員会が設置され,その委員会が資料選定基準に基づいて選書を行い,中央館長・有馬館長・統括館長の3館長が購入を決定し,教育委員会がそれを「確認」するという。
この一連の騒動は,指定管理者の選書に対して,教育長や市長による干渉が比較的容易になされることを示している。容易になされる原因は二つある。教育委員会や市側にとっては,「不適切」な本の購入を放置すれば,そのような指定管理者を選定したことの責任が問われかねないからである。また指定管理者側にとっては,次回の選定や他都市での選定のことを考えれば,市側の干渉に対して不服を申し立てることはあり得ないからである。
干渉を受けやすい場所では,自己規制も生じやすい。選書における自己規制は直営館でも起こりうる。しかし,市側からの干渉を受けやすいという理由で,指定管理者館の方が自己規制が生じやすいものと推測できる。つまり,「不適切」と見なされそうな本は需要があっても選ばないという傾向が,指定管理者館の方に強いものと推測できる。
試みに,図書館による自己規制の例として大きな問題となっている『絶歌』(元少年A著)と,ほとんどの館が購入したと思われる『ラプラスの魔女』(東野圭吾著)について,直営館と指定管理者館の所蔵状況を調べてみた。調査対象は東京都の公共図書館で,検索方法はカーリルである。
『ラプラスの魔女』と『絶歌』を所蔵している直営館は,それぞれ264館と54館であった。一方,指定管理者館では,それぞれ107館と11館であった。『ラプラスの魔女』の所蔵率から『絶歌』の所蔵率への所蔵率低下の割合は,直営館で20.5%,指定管理者館で10.3%となる。これは,指定管理者館の方が,『絶歌』の収集について抑制的であることを意味する。
東京都の状況だけでは判断できない。指定管理者館には小規模館が多く,小規模館では『絶歌』は購入されにくい。『絶歌』は特殊な本である。そうした反論があるかもしれないが,指定管理者館の方が自己規制が強く働いているとの疑いが拭えないことは確かである。(『絶歌』の所蔵館が,わずか65館であることの問題については,ここでは述べない。)
日本図書館協会の調査によれば,指定管理者館は2015年3月末で430館であり,全国3,226館のうちの13.3%に相当する。この割合が少しずつ増えることによって,選書への干渉や自己規制の可能性も高まっていくことを危惧する。
愛知県小牧市では10月4日,CCCとTRCの共同事業体が提案する新図書館建設計画を巡って,住民投票が行われた。結果は「計画には反対」であり,CCC・TRCとの契約は解消されることになった。図書館への指定管理者制度導入を検討していた滋賀県大津市では11月5日,図書館は委託しない旨の発言を市長が行なった。制度の導入に反対する市民運動の結果であった。展望はある。
(やまもと あきかず 理事・椙山女学園大学)