TOP > 『図書館界』 > 67巻 > 4号 > 座標 / Update: 2015.10.31
2001年12月に公布・施行された「子どもの読書活動の推進に関する法律」(以下「読書推進法」という。)は,子どもの読書離れに対する懸念等を背景として作られた法律である。同法では,子どもが自主的に読書できるように読書環境の整備を進めることを目的として,国は「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を策定すること,地方自治体は国の計画や地域の状況を踏まえた推進計画の策定に努めること等を定めている。
同法の施行を受けて,2014年までに国による「基本的な計画」は第三次まで策定されている。また,地方自治体の推進計画は,文部科学省の調査(2014年3月)によると全都道府県で策定されており,市町村では64.2%の自治体が策定済となっている。
読書推進法の施行から約14年が経過した現在,これらの計画策定等の効果もあってか,国や地方自治体の「読書」に関する取組みは,同法の施行前に比べると格段に増えた印象がある。特に地方自治体については,独自の「読書」に関する条例の制定や,「読書のまち宣言」を行うなど,より積極的に取組んでいる自治体も増えてきている。さらに,民間団体等の主導による取組みも広がりを見せている。例えば,2001に日本に導入された「ブックスタート」は,2015年8月31日現在で932の市区町村で実施されている(NPOブックスタートHP参照)。また,「朝の読書」は,2001年9月には約7000校だった実施校数が,2015年9月には約27000校にまで増加している(朝の読書推進協議会推奨HP参照)。
このように,読書活動の推進に関する取組みは広がっているが,実際に子どもの「読書」に変化は見られるのだろうか。そこで,継続的に実施されている「学校読書調査」(毎日新聞社と全国学校図書館協議会が毎年共同で実施)のデータを用いて2001年と2014年の状況を比較してみた。
読書推進法施行直前の2001年6月に実施された調査では,平均読書冊数(2001年5月の1か月間に読んだ書籍の平均冊数)は小学生6.2冊,中学生2.1冊,高校生1.1冊で,不読者(1か月間に本を1冊も読んでいないと答えた者)の割合は,小学生10.5%,中学生43.7%,高校生67%となっていた。これに対し,2014年6月の調査では,平均読書冊数は小学生11.4冊,中学生3.9冊,高校生1.6冊となっており,小中高の全てで冊数が増えている。また,不読者の割合は小学生3.8%,中学生15.0%,高校生48.7%で,こちらも大きく改善している。
このように,断片的な情報ではあるが,外から捉えることのできるデータ上では,読書をしている子どもの割合や読書冊数は増えている。もちろん,その要因を読書推進法のみに求めるとはできない。しかし,同法の影響によって,子どもたちが「読書」と出会う機会が格段に増加したことは確かだろう。
一方,「大人」の読書調査である「読書世論調査」(毎日新聞社が毎年実施)では,子どもとは対照的な結果となっている。20歳以上の1か月間の平均読書冊数は2001年が0.7冊,2014年が0.8冊で低い水準を維持しており,「普段書籍を読まない」と回答した人の割合は2001年の34%から2014年には46%と大きく増えている。このデータを見る限りでは,子どもよりも,大人がもっと本を読む必要がありそうである。(各調査のデータは該当年の『読書世論調査』毎日新聞東京本社広告局刊から抽出)
読書推進法の制定時には,様々な個人や団体が同法に対する意見を公表している。その内容は様々だが,個人的な営みである読書を法律で推進することに対して,読書の強制につながるのではないかといった懸念も表明されていた。このような意見を反映し,衆議院文部科学委員会では行政による不当な干渉を抑制する旨の附帯決議が付され,実際の施策も環境整備に重点を置いたものが中心になっている。
今後も,子どもの読書活動の推進は,子どもたちが自然に読書に親しめるような環境整備を中心に行っていくことが望ましいだろう。そのための効果的な方策の一つは,大人が読書することではないかと思われる。周囲の大人が楽しそうに本を読んでいれば,子どもも自然と本を手に取るようになるのではなかろうか。今後は,大人の読書活動の推進についても積極的に取組んで欲しいところである。
(ひおき まさゆき 理事・大阪府立中央図書館)