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《座標》
『図書館界』67巻1号 (May 2015)

戦後70年,図書館法における保障と規制緩和について

志保田 務

 第2次世界大戦の終焉,日本における終戦の1945年から70年がたとうとしている。膨大な戦死者,被災者,悲運の人々を産み,結果,多くの財が失われ,国土は焦土化した。図書館に関しては,戦時中の東京日比谷図書館の蔵書の疎開がテーマのドキュメンタリー映画『疎開した40万冊の図書』(監督・金高謙二,2013)によって示された。終戦の約1年後に編まれた日本国憲法,国民の権利及び義務を定めたその第3章は,図書館の支えとなっている。特に教育の権利と義務を定めた第26条は,教育基本法,社会教育法を経て,1950年の図書館法制定へ繋がっている。それは65年前のことになる。

 同法の制定当時あるいはその後しばらく,大自治体の館長クラスを中心に,国庫支援の明記や義務設置制を求めての反対ないし改正の声があったという。こうした事項に関して,その次の世代の人たちは,規制の緩いことこそが地方分権であり,図書館の設置や予算に関しても,住民が主体的に勝ち取っていくべきものと,この法の精神に賛同し,新しい図書館活動をリードした。

 この法律は,一般公衆への奉仕を謳い,公立図書館の設置に関する事項は自治体の条例で定めること,無料制を明記し,専門職制度を定めた。これらの規定は“一応”というレベルで,“規制”と呼び得よう。だが,これらは干渉的な規制でなく,保障規定である。結局同法には規制が少なく,評価が高い。また何度かの改正で規制緩和を進めている。同法上の規制緩和は概ね2種あると考える。第一の種は,旧第7条(現在の第7条は「評価」の条項となっている)にあった“文部大臣,都道府県教育委員会の指導”,第24条にあった“私立図書館の都道府県教育委員会への届け出義務”である。これらはいわば干渉的規制で,削除は正当である。第二の種は,補助金等による縛り(補助金規制)である。現在,補助金に関する規定(第20条)自体は残っているが,施行に関する「最低基準」を定めた第19条,第21条を削除し(1999年),実行不全である。補助金廃止の潮流は,「地方分権」という国全体の流れから交付金への切替えを主張する。

 以上の規制緩和は受け容れられる面が強いだろう。

 ただ,保障(よい意味での規制)がなされる方がよいと思われる面,現実に不足を感じる面を少し挙げてみる。補助金受給に関して館長に司書資格を要求していた第13条第3項の廃止は,無資格館長を多産する因となっただろう。補助金廃止とは別に館長資格の規定を望みたい。

 これ以外にも,縛りの欲しい条項がある。第17〜19条に規定の「図書館協議会」である。これが“置くことができる”となっている。結局“置いていない”有力図書館が散見できる。館長や職員を規定(第13条)している図書館法であるから,協議会についても必然的に規定するのがよいであろう。図書館協議会については,“館長の諮問機関に過ぎない”とか,“米国なみに図書館委員会でなければ意味がない”といった批判の声もある。だが,何らかの形で図書館行政を監視し,具体的な例では,指定管理者制度への移行などに対する歯止めの機能を果たす可能性がある。そうした効果が,幾つかの市立図書館,区立図書館の協議会に見うけられる。こうした組織を持たない図書館には,住民からのチェックもかけにくい。活発な活動をしている図書館にあっても,館長が非専門職で,図書館協議会がない場合,突然市長の一声で制度変更に転進する危険がある。そうしたとき,市民運動に期待するにも磁場がない。図書館協議会が不可欠である。

 図書館法の今一度の整備を図る必要があると考える。例えば,館長の専門職資格と,図書館協議会(できれば図書館委員会)の設置を義務付け,各館で判断できる組織を保障すべきある。不可能ではない。

 例えば韓国では,米国に倣い,新図書館法を2006年に公布し,その第2章に「図書館政策の樹立と推進体制」を規定した。国・公立公共図書館長の司書職化による図書館運営体制の専門化,国家図書館制度を確立し,機能強化を図った。そこから10年,進展は著しい。

 我が国図書館法にも韓国・米国のように保障部分でよい意味の規制が必要と思うが,いかがであろう。

(しほた つとむ 理事 桃山学院大学)