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《座標》
『図書館界』66巻1号 (May 2014)

そろそろ,冷静な「武雄市図書館論」を!

南 亮一

 2013年4月に武雄市図書館が開館してから,早くも1年が経過する。

 図書館が好き,という個性的な市長が何とか図書館をもっと発展させたい,ということでいろいろ働き掛けたが,いろいろ理由を付けられて実現しない,何とかならないか,と考えていたら,偶然観たテレビ番組に代官山蔦屋書店が取り上げられていて,そのまま観てみたら,「これだ!」ということになったということである。すなわち,代官山蔦屋書店が展開する,滞在型の文化ゾーンというコンセプトが,市長の考える図書館像と一致したのである。

 それからこの代官山蔦屋書店の要素を持つように図書館を変えるため,武雄市図書館では,指定管理者制度を導入してツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に運営を委ねることとし,休館日をなくして開館時間を延長,従来からある施設を改造して,児童室を潰しスターバックスコーヒー(スタバ)の店舗を構え,蘭学館を潰してツタヤのCD・DVDコーナーにし,図書館の入口からみえるいわば「特等席」にツタヤの本・雑誌を置き,ポイントを付けるためにTカードを利用者カードとして使えるようにし,はたまた書架の資料の排架方法につき,(運営者側に言わせれば)ユーザーにとってより分かりやすい分類体系をあみ出してそのとおりに排架する,といった様々な「改善」を行った。

 この改善の結果が当初の狙いどおりになっているのか,それとも,拙速に導入を進めた(指定管理者の決定の日である2012年5月4日から数えても開館まで10ヵ月しかない)ことで,当初の狙いを果たさなかったのか,こういうことを総括し,よいところがあるのであればそれは積極的に紹介する,うまく行かなかったものについてはこうすればもっとうまく行くのではないかということを提示し,今後の図書館サービスの改善に生かせるようにする,という試みが,そろそろ必要ではないかと考える。

 今まで展開されている武雄市図書館をめぐる議論は,前述のような導入の拙速さ,決定過程における問題点の指摘,CCCが受託すること自体を問題視するもの(個人情報の取扱い方に疑問を呈するものも含む),武雄市長のある種個性的な政治手法をことさら問題視するもの,スタバやツタヤという商業施設と共存することの問題点を指摘するものなどが主であると思われる。他方,レンタルと無料貸出を共存するサービスはうまく行っているのかとか,独特の書架配置が本当にユーザーフレンドリーなものになっているのか,スタバの喫茶機能と図書館機能が有機的に連関しているのかとか,そういう,うまくいけばひょっとして他館でも応用できるような図書館サービスのあり方についての検討はほとんどみられないのではないだろうか。武雄市図書館のあり方には賛否両論あるだろうが,いささか感情的な,賛成派と反対派とにラベリングされるような,そういう状況しか生み出していないのは非常に残念なことだと思う。

 私も昨年11月,ご当地の図書館員であるSさん,Mさんにお願いして,武雄市図書館に連れて行っていただいたことがあった。土曜日だったとはいえ,雨天の中でも駐車場はほぼ満杯,館内もにぎわっているようで,確かに繁昌しているように思えた。ただ,図書館を利用する人とスタバやツタヤを利用する人があまり重なっていないように思えたし,図書館自体どうもそういう意図をもって利用者の動線を組み立てているとは思えなかった。また,先ほど掲げた様々な「改善」についても,書架整頓がうまくいかない,そんなにわかりやすい配架とは思えない,相互連関がなされていないなど,個人的にはうまく行っていないように思えたが,やりようによってはとてもよいサービスになるのではないかとも思えた。

 市長の政治手法や導入過程の問題,指定管理者を導入している問題,個人情報保護の手法の問題などに焦点を当てると,どうしてもある種のドグマ的というか,感情的というか,そういう面が強くなり,冷静な議論ができなくなっているのではないか。開館から1年を経過したということで,サービス面に重点を置いた,冷静な議論が行われることを願うものである。

(みなみ りょういち 理事・国立国会図書館関西館)