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《座標》
『図書館界』65巻4号 (Nov. 2013)

ラーニング・コモンズと大学図書館

赤澤 久弥

 「ラーニング・コモンズ」の設置が日本の大学図書館で進んでいる。その概念が国内で広がりだしてから10年も経たない施設であるが,既に国内では200を超える設置例があるという。ラーニング・コモンズは,主にアメリカの大学図書館における学習支援の文脈に位置づけられるものであり,協同学習エリア,コンピュータエリア,プレゼンテーションエリア,リフレッシュエリア,さらにはサポートデスクを配した図書館員や学生などによる人的支援などがその要素としてあげられる。

 近年の中教審答申などで,学士課程教育の再構築や能動的な学習形態「アクティブ・ラーニング」の導入が求められており,また,今年8月には文部科学省から,大学図書館の「学習空間」整備の必要性を示す報告が出された※。こうした状況の中,ラーニング・コモンズの設置は今後一層進むことが予想される。

 ところで,「コモンズ」は,元来,広場や共有地を意味する言葉である。ラーニング・コモンズは,さしずめ「学習のための共用スペース」といったところであろうか。ならば,大学図書館はもとより「ラーニング・コモンズ」であろうとしてきた。サービス面では,以前から学習用図書の整備やレファレンスサービス,情報リテラシー教育などの学習支援を行ってきた。施設面を見ても,協同学習に対応した施設はグループ学習室として,コンピュータはPCルームなどとして,既に多くの大学図書館が提供しているものである。

 ではいま殊更に,ラーニング・コモンズを設置することの意味は,従来の施設やサービスを統合的に提供する意義はもとより,大学図書館がより積極的に学習支援を行うというメッセージを発信することであり,また新たな学びのスタイルを学生や教員に提示することであろう。

 もっとも,授業形態や学びの形態,学生の気質などによって,従来の静かな図書館や個席へのニーズも存在するし,本のある静かな場所というのは図書館のブランドイメージでもある。では,ラーニング・コモンズは,必ずしも大学図書館内に必要ではないかもしれない。しかし,試験期に学生が図書館に集まって来ることが示すように,図書館には集積された知を背景に人を集め学びへ導く場所という他にはない特質がある。

 そして,ラーニング・コモンズで学生たちが議論したり,ホワイトボードに数式を書き合ったりしている姿を見ると,どうにもわくわくさせられる。それは,学びの現場に立ち会う刺激であろう。ならば,ラーニング・コモンズは,図書館の特質を活かしつつ,学生間にも刺激をもたらす場として,図書館に親和性がある。また,今後資料や授業の電子化,ネットワーク化がより進んでも,人が集まり刺激を与えあう場所は,将来も残ると思われる。それが大学の本来的な機能であろうし,それはまた,図書館の機能としても同じに違いない。

 さて,図書館が資料や施設,サービスの提供を従来から行っていたと主張しても,それが社会や所属する組織において,広く認知され受容されていなければ,その提供主体は必ずしも「図書館」であり続けるとは限らない時代が来ている。そこにおいて,図書館は,今まで以上に自身の強みや本質を見据えながら,求められているものを読み取ること,そして積極的に自ら変化し,また自らをプロデュースしていくことが必要なのではないだろうか。

 そのとき,人が集まり何かを生み出す場所というあり方は,これからの図書館の姿と思われる。そこで,大学図書館においては,社会や大学,学生の変化に応じて,ラーニング・コモンズという形で新たな図書館の姿を自ら積極的に示すことは,有効な戦略である。とはいえ,ただ場所のみを用意すればよいというものではないだろう。そこでは,そうした「場」を創り,機能させ,さらに図書館の外側に繋げていくプロデューサーとしての役割が,大学図書館員に強く求められるはずだ。また,それはこれからの図書館員に共通する役割のように思うのである。

  ※科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)」,2013.8

(あかざわ ひさや 理事・京都大学附属図書館)