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《座標》
『図書館界』64巻6号 (Mar.,2013)

「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」
(2012.12.19)の成立

志保田 務

 『公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準(平成13年文部科学省告示第132号)について』(文部科学省生涯学習政策局社会教育課,平成24年12月)が告示された。不告示,法条項上の変動,名称変更等曲折を経た“望ましい基準”の最新形である。

 図書館法(1950年法律第108号:以下「法」と略)第18条は「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」を“文部大臣が教育委員会に提示し一般公衆に示す”と規定した。だが“提示”は50余年も遅れて,下記のように発表された。つまり,2001年に初めて「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(法第18条依拠)が告示された。

 この“基準”が,2008年法改正で総則の第7条の2へ移項された。だが告示そのものは依拠条項を書き換えただけで「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」の名のままだった。今般これが,名実とも総則該当の形に転じた。形式面の整合であり内容,たとえば数値基準的進展も見えにくい。ただし,問題は実は別の面にあるように思われる。国の“責任”を明記せず,逆に巧まざる“規制”意図が下敷きにあるように伺えることである。

 “望ましい基準”は第18条としての法制定時,認可制(旧図書館令が規定)撤廃に備え国が公共図書館の質の保障を図ったものである。したがって“望ましい基準”の告示は公共図書館活動に対する国または都道府県の支援内容,目標を示す筈だった。だがそれがネックとなったか,検討に入るのにさえ15年以上を要した。『中小都市における公共図書館の運営』(JLA,1963)を経て図書館活動が重視され始めた1967年,文部省社会教育審議会の図書館専門委員会がこの基準を初めて立案した。だが“数値が高すぎる”との理由で,都道府県教育委員長が集まった社会教育審議会総会が拒否。1972年にも同様の経過があった。内容のある検討はその時点で停止した。1992年生涯学習局長名での“通知”がされたが,非公式だった。

 こうした滞留は,国または都道府県が市町村図書館への出費に消極的であるという姿を映している。

 初めて(2001年)告示された「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(法第18条依拠)は,「地方分権推進一括法」の下の補助金廃止,最低基準規定(法19条)削除の代替策に留まり,補助規定がない。その告示は国その他に出費を促さない。

 2008年の法の改正でこの“基準”は第7条の2へ移項。更に問題点を生じた。今般の“望ましい基準”の改正は,関係事項の正式文章化である。

 翻って法第7条は,法制定当時「指導,助言」を規定していたが1956(昭和31)年に削除された。理由は規制排除にあった。このとき,第11条(公立図書館の届出),第24条(私立図書館の届出)も削除。図書館の設置,運営の自由性が明確となった。

 ところが2008年「7条」が“空条活用”の形で復活した。第7条の2「図書館の望ましい基準」のほか,第7条の3「評価」,第7条の4「運営の状況に関する情報の提供」である。第7条そのものは「研修」に充てられた。これらは第1章総則の規定であり,私立図書館にも適用される。法「国及び地方公共団体は,私立図書館の事業に干渉を加え(中略)てはならない」とする第26条に抵触しないか。前記,『(平成13年文部科学省告示第132号)について』のT(2)@(留意すべき点)では,「新基準は(中略)ノーサポート・ノーコントロールの原則を変更するものではない」としているが(同文書の参考p.4)。

 館界として十分留意を要する。こうした新しい総則関係の規定は命題的規定で,資金援助の期待もないが,規制を復活させるような性格のものでないとされるかもしれない。だが,これが私立図書館にどんな形で及ぶのか,危惧がないわけでない。

 2008年総則に新設の第5条“大学における図書館に関する科目”に関して大学側に相当厳しい指導がされたことは記憶に新しい。“望ましい基準”は,5条のような数値的な制約(単位数)を伴う条項ではない。だがそれが,監督官庁の規制根拠となる恐れはありうる。図書館は,不当な支配に属することのない自由の砦でありたい。

 図書館情報学の核心もその擁護にあると考える。

(しほた つとむ 理事・桃山学院大学)