TOP > 『図書館界』 > 64巻 > 4号 > 座標 / Update: 2012.11.4
近年,ICタグシステム(RFID)を導入する公共図書館が増加している。その活用法はいくつかあるが,主な用途としては,(1)カウンターでの貸出・返却処理の迅速化・省力化を図る(10冊程度を一度にまとめて処理できる),(2)自動貸出機を導入し,利用者自身が機械を操作して貸出手続きを行えるようにする,(3)蔵書点検にかかる時間を短縮して休館日数を減らす,(4)貸出手続き確認ゲート(いわゆるBDSゲート)の設置により不正持ち出しを防止する,などがある。
関西の公共図書館では,これまでICタグシステムの導入事例はあまりなかったが,この3年ほどの間に高槻市(2010年1月〜),和泉市(2011年3月〜),箕面市(2012年4月〜),伊丹市(2012年7月〜)の各図書館で立て続けに導入されてきた。また堺市なども導入に向けて準備を進めている。
さて,近年の導入事例では,自動貸出機とBDSゲートの採用が積極的に行われている点が目を引く。ICタグ普及以前は公共図書館での導入は限られていたが,ICタグの活用で利便性が向上したためであろうか,特に自動貸出機は積極的導入に転じているようだ。従来型のバーコード式では1冊ずつしか処理できなかったが,ICタグではまとめて処理でき,機械操作も簡単なため,利用者による「セルフ貸出」が定着しやすい。今では貸出処理のほとんどがセルフ貸出という図書館も登場している。また,予約棚を設置し,利用者自身が予約本を棚から取って貸出処理する「完全セルフ予約」も見られる。
このセルフ貸出の増加は,図書館サービスに今後どんな影響・変化をもたらすのだろう。
一つは,カウンター業務の省力化による効果である。貸出業務の大半を占める単純な貸出手続きをセルフ貸出に移行できれば,増え続ける貸出への対応に苦慮していた図書館の業務量を削減でき,その時間や労力を,レファレンスや選書などに振り向けることができる(と言われている)。実際に,読書案内やレファレンスなどの人的援助が充実したか,選書や貸出以外の(たとえば児童や高齢者への)サービスが充実したかどうかは各館での検証を待たねばならないが,単純にはプラスと捉えられよう。
反面,カウンター業務の省力化は人員削減につながる可能性が少なからずある。業務見直しの結果,人員配置をも見直して人件費の削減につなげようとするのは,どこの自治体でも当然起こりうる。
またセルフ貸出の利点としてしばしば指摘されるのは,図書館員に見られたくない本が借りやすくなることである。カウンター(対面)での貸出手続きを回避し,利用者の心理的抵抗感を取り除いてくれるという効果は,実感としては理解できる。
一方気がかりなのは,大半の利用者がセルフ貸出を行っている図書館で,本の所在や探し方を図書館員に尋ねたい利用者が,カウンターにわざわざ立ち寄って質問してくれるのかという点だ。カウンターに向かう利用者が誰もいないのに,自分だけが質問に行くのは気後れするのではないだろうか。
かつての貸出論争に関わって,山本昭和は次のように述べた。「利用者と図書館員との間に多くのやりとりが生じていることが,豊かな図書館サービスを形成していくための要件であり,それが最も多く生じるのが貸出カウンター」 であると。たとえ「○○日までに返却下さい」などであっても,直接声をかわす対面での貸出の意味は決して小さくない。
注(まつい じゅんこ 理事・大阪芸術大学)