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《座標》
『図書館界』64巻3号 (Sept. 2012)

ポイントはなぜ付くのか

前川 敦子

 2012年5月,佐賀県武雄市が発表した市立図書館の運営・管理をカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)に委託する構想については,様々な議論が現在も続いている。

 CCCはビデオ・DVD・書籍等のレンタル・販売事業「TSUTAYA」やポイントサービス事業(Tポイント)等を展開する。5月の会見時,武雄市長から図書館利用カードのTカードへの切替,貸出に応じたポイント付与や貸出履歴に基づくリコメンドサービス実施などの意向が報じられたため,貸出履歴の第三者への流出などの疑念が論議となった。その後,図書館カードは既存カードとTカードの選択制とし,Tカード利用者に対して,1)図書館内に閉じた「分析システム」に「属性情報(性別・年齢・住んでいる町名)・使用年月日・使用時刻・貸出点数・貸出履歴」を13ヶ月保存し,蔵書構成などの検討資料に使用,2)自動貸出機利用の場合Tポイント付与,3)CCCポイントシステムに「T会員番号・使用年月日・使用時刻・ポイント数・貸出点数」を提供するとし,従来カード選択者には1)〜3)いずれも行わないとする案に修正された。6月市議会での条例改正,武雄市個人情報保護審議会での審議を経て,7月臨時議会でCCCを指定管理者とする案が成立している。

 この問題では,指定管理者制度導入の是非や業者選定プロセスの透明性など多岐にわたる論点を市内外に提供したが,Tポイントと貸出履歴の活用を巡る問題は,図書館のあり方と図書館記録の秘密性を考える上で,とりわけ武雄市のみにとどまらない課題を提供した。

 武雄市は,主に若年層に図書館に親しんで貰うための試みとしてTポイント導入を打ち出したとのことだが,そもそもTポイントはなぜ付くのだろうか。Tカード取得時に「同意」する「T会員規約」によると,「ポイントプログラム参加企業における利用の履歴」を「会員のライフスタイル分析のため」・「会員に対して,電子メールを含む各種通知手段によって,会員のライフスタイル分析をもとに,または当社が適切と判断した企業のさまざまな商品情報やサービス情報その他の営業案内または情報提供のため」に収集を行う,としており,CCCが提携する複数企業での購買活動/行動履歴の収集と分析による,いわゆる「ライフログ分析」によるマーケティングを行うことが示されている。ポイントは単なる販売促進用のおまけではなく,個人の行動履歴提供の代償の意味を持つ。こうしたことが規約への同意の際に十分説明されること,また当然ではあるが,図書館内の分析システムに残す履歴情報がCCCポイントシステムへの提供情報と連結されることなく厳格に管理され,それが市民の目から明確に確認できることで,市民が安心して図書館を利用できることを願う。

 今回改めて認識したのは,図書館での読書事実や利用事実は,ライフログの一要素として「商業的価値」を持つということである。図書館記録の秘密性を脅かす仮想対象は,従来は主に警察や捜査機関などの公権力であった。電子ネットワーク環境下で商品価値を持つ情報の入手の試みは違う形で行われる。利用者のプライバシーを守る手段も新たな追加が必要だろう。プライバシー情報も利用者情報や貸出記録,レファレンス,ILL,施設・サービスの利用記録だけでなくウェブ閲覧履歴,検索キーワードなど多岐に及ぶ。電子書籍が普及すれば誰がいつどのページを読んだのか,詳細なデータが生まれる。以前なら個人と直接紐付くことがなかったそうした情報が,集積と分析により個人の思想や嗜好を表す情報として個人像を映し出し,マーケティングの材料となりうるからである。

 図書館は,知りたい情報,人には知られたくない情報を,誰もが萎縮することなく安心して入手できる場を変わらず目指すべきだし,そのために必要な手段を講じる努力をする必要がある。進展の激しいIT技術の知識を得る努力をすること,図書館記録だけにとどまらず,情報プライバシー保護全般を視野に入れた整備に関わること,関係者と連携することなどが思い浮かぶが,どうだろうか。

(まえかわ あつこ 理事・神戸大学附属図書館)