TOP > 『図書館界』 > 63巻 > 4号 > 座標 / Update: 2011.11.18
進学校の図書館にはどんな役割が求められているのだろうか。自習室としての存在のみでいいはずはない。ところが,生徒の気が散るからと閲覧机から本が見えないようにしてほしいと言われたとか,高3生に占拠されて下学年は図書館に入れない雰囲気だとか,よく耳にする。
2010年度の学校図書館問題研究会第26回全国大会(東京大会)で,「なにする?どうする?進学校図書館」と銘打ったワークショップを行い,進学校卒業者がひしめいているであろう東京大学学生に高校図書館の利用実態アンケートを実施した。
詳しいアンケートの結果は『がくと』26号(学校図書館問題研究会,2010)をみていただきたいが,学校図書館を「よく利用していた」「時々利用した」という学生の利用目的の70%が「勉強・自習」であった。しかし,「本を借りる」「読書・調べ物」という利用目的も80%あった。また,どんな学校図書館が望ましいと思うかという質問には,「自習スペース」を求める回答が多かったが,「楽しい図書館」「カリカリした雰囲気でない」「みんなが気楽に立ち寄れる」などの回答もみられた。自習室利用のみということではなく,多様な図書館像が見えてきた。
また,現役大学生に図書館がどうあってほしいのか,考えてもらった。東京大学駒場図書館と灘校図書館の貸出傾向(2009年度)を比較し,総記(16.4%),社会科学(23.2%),自然科学(26.4%)が占めており,学校図書館で多かった文学は5.9%にとどまる。高校と大学との劇的な貸出傾向の変化は高校での学習と大学での学びの変化に依拠すると思われる。ギャップを少しでもなくし,適切な梯子かけを行うことこそ,進学校の図書館に求められる姿勢であると主張した。さらに,生徒自身がレファレンスでどこまでのことができるかを理解しておらず,文献調査,事項調査を行うレファレンスの利用を普及させるべきだとのことであった。1年次の必修である基礎演習の授業の中で,図書館のレファレンスサービス,特に文献調査や事項調査の周知を徹底し,利用を奨励していることは,大学側が入学したての大学生に図書館を利用できるように強く要請していることだから,そうした大学に生徒を送り込む進学校の図書館としては,学問のアーカイブとして図書館を利用するという段階へのステップアップの学習の場を高校の間に提供するべきだとまとめた。しかし,大学図書館でも,試験のある月は入館者数が大幅に増加していること,自習スペースだけではなく図書閲覧コーナーまで進出してテスト勉強するのを見るに,「自習室」としての図書館という存在は利用者に根強くしみこんでいるように感じられるとのことだった。
他の学生からは,学校図書館とは同じ本を読んでいる人と出会える場所,本を読むだけで終わらない図書館が望ましいとの意見も聞かれた。本を仲介としていろんな意見を交わせる,“個”の読書を“多”の読書へ変換させるのが学校図書館だというのである。ワークショップでの結論として,進学校図書館は大学へ入る子を育むのではなく,大学で学べる子を育てるべく存在するべきだと,現役大学生たちは主張したのであった。
多様な利用に対応できる学校図書館でなければと思う。自習室を別に設けることができればよいが,校内に施設的余裕がなく,やむなく図書館がその任を負わされることは少なくない。だからといって,図書館本来の役割を差し置いていいはずはない。どんな利用者も知的欲求を思うがまま展開・発展させることができる図書館でなければならないことは,進学校図書館も同じである。
多様な知識や情報を吸収し考えをめぐらすことができる思春期に,「本」との出会いを制限されたり,「本」と巡り合うスキルを身につけることができないことは,その後の大学での学びに大きなマイナスとなる。学校図書館利用者は,自分の通っている学校の図書館が「学校図書館」のイメージのすべてとなる。よその学校図書館を利用する機会はほとんどないので,比較してどうこうということはなかなか考えることが出来ない。図書館=自習室というイメージを学生に根付かせないためにも,学校図書館の役割,活動を広い視野で考えたいものである。
(かのう ゆき 理事 灘中学校灘高等学校)