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《座標》
『図書館界』62巻6号 (Mar., 2010)

公共空間をつくる

−図書館協議会の可能性−

山口 源治郎

 昨年10月に小金井市で図書館協議会フォーラム「小金井市立図書館のいまとこれからを考える」が開催された。図書館協議会が討論集会を企画し主催するという例はあまり聞かない。恵庭市図書館協議会の事例が『みんなの図書館』(2005年6月号)に紹介されている程度である。小金井市の図書館協議会がなぜこうしたフォーラムを開催したのか,その経緯を紹介したい。

 2008年4月図書館長より,「図書館運営体制の見直し」という諮問があった。その趣旨は,民間活力(委託)を導入したいというものであった。諮問に際し委託に関する資料が配付され,最初から委託導入OKを要請するという異例なものであった。これに対し協議会では,委託業者や専門家を招いての学習会を含め1年半にわたる慎重な検討を行い,直営の下での経営改善の提言を柱とする答申を2009年7月に提出した。

 ところがこの答申に対し,「小金井市図書館協議会答申(提言)に対する市の考え方」(2009年9月)と題する市側の反論書が直ちに発表された。こうした反論書が出されるという例は寡聞にして知らない。その内容は答申の提言は実現不可能であるとか,委託によって実現したいという内容であった。市議会でも協議会答申と市の反論書が大きな議論となった。結局市側の対応のまずさもあって,委託予算を取り下げるという事態となった。

 こうした異例づくめの事態の中で,図書館協議会としては,委託導入が一旦中止されたことを,答申の内容を市民に説明し,図書館の運営のあり方について市民と考えるチャンスが与えられたと受け止め,議論の場(フォーラム)を作ることを考えた。ただ残念ながら図書館との共催や後援,図書館長のパネラーとしての参加はえられなかった。そのためビラやポスターの作成,会場準備など,すべて協議会委員が行った。フォーラムは委託賛成論者もパネラーとして参加し,充実した内容となった。参加者も70名を超え,立ち見ができるほどであった。

 図書館協議会は,図書館長の諮問に答え,図書館サービスに関し館長に意見を述べる機関である(図書館法14条)。西崎恵は『図書館法』(1950年)の中で,「公立図書館の公共性を考える上において注目すべき規定」として,無料原則とこの図書館協議会の意義を強調している。それは住民参加の仕組みとして図書館法ではじめて制度化されたものである。

 しかし法制定後,図書館協議会は一部を除き必ずしも重視されてきたとはいえない。設置率(設置自治体)もJLAの2006年調査においてすら64.9%に止まっている。意外にも,『中小都市における公共図書館の運営』(1963年)や『市民の図書館』(1970年)には図書館協議会に関する記述はほとんどない。むしろ当時は,古い図書館観をもった協議会委員によって,住民本位の図書館運営が妨げられるのではないかと考えていた図書館員も少なくなかった。

 図書館協議会の役割に期待が寄せられるようになったのは,図書館づくり住民運動が広がり,図書館を積極的に支える社会層が形成される1970年代以降であろう。そうした動きが盛んな自治体では,図書館づくり運動の関係者を積極的に協議会委員に委嘱しはじめる。この頃から,図書館協議会が実質的に住民要求を図書館運営に反映させる参加機関として機能しはじめたのだと思う。さらに近年,公募委員の制度を採用する自治体も多くなっている。われこそはと公募に応じ,協議会委員となった住民が協議会の活性化に積極的な役割を果たしている。

 このような動向を背景に,近年図書館協議会の役割や活動が改めて注目をあびている。協議会が,指定管理者制度の導入をめぐり,理論的にも高い水準の答申や意見書をまとめ,無節操な指定管理導入の動きに歯止めをかける役割を果たしている。しかし多くの場合,図書館協議会の活動としては,年数回の会議室の中での議論に止まりがちである。そうした中で今回の小金井市の図書館協議会フォーラムの試みは,図書館協議会が自ら行動し,図書館と市民を橋渡しし,その間にフォーラムという公共空間をつくり出すという新たな役割と可能性を示したのではないかと思う。

(やまぐち げんじろう 理事・東京学芸大学)