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《座標》
『図書館界』61巻1号 (May 2009)

図書館に市場化テストはなじまない

西村 一夫

 市場化テストは,「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(2006年6月公布)に基づき行われるものであり,「民間が担うことができるものは民間にゆだねる観点から,公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図る」ことを目的としている。

 大阪府はこの法の趣旨をいかした大阪版市場化テストをすでにいくつかの業務で実施しており,2008年12月9日付けで大阪版市場化テスト監理委員会より「新たな業務に関する検討のまとめ(提言)」が報告された。この中で新たな対象業務として税務業務等9業務が大阪版市場化テストの対象業務と決定されている。この中には「府立図書館管理運営業務」も含まれており,大阪版市場化テスト監理委員会の審議結果が公表されている。

 大阪府立図書館は府内各市町村図書館への協力貸出し,協力レファレンスを通じて全府的な図書館サービスを進めており,さらに市町村図書館職員の資質向上のための研修の実施により府内公立図書館のレベルアップに大きな力を発揮している。このようなサービスと図書館振興は,中之島図書館開館以来100年以上にわたって府立図書館に蓄積された業務上のノウハウにより実現されているものであり,これらは民間にはない貴重な財産である。

 市場化テスト監理委員会の「審議結果」によれば,「民間の司書資格を有する者の活用の可能性も検討する必要」があると述べられているが,司書有資格者というだけでは府立図書館の約170万冊の資料を駆使した資料の提供とレファレンスサービスを行うことは不可能である。また,「接遇のレベルアップや対応時間の拡大,リードタイムなど組織的に質的向上を目指せる余地がある」との指摘に対しても,接遇については民間をしのぐ水準であると指摘されており,また平成21年度からは開館日の増加が予定され,リードタイムに関しても豊富な経験の蓄積された職場における司書職員の力によって十分に効果は上がっており,民間の入る余地は考えられない。指定管理者制度による運営を行っている公立図書館を見てみると,低賃金と不安定雇用のために職員の入れ替わりも多く,図書館業務の経験の蓄積などはほとんど行われない状況がある。これでは住民への図書館サービスが十分できないことは自明であろう。

 この間,図書館の民間委託の方法として指定管理者制度が導入されてきたが,指定管理者による図書館運営では,

  1. それぞれの図書館における貸出や予約の処理,レファレンスのやり方,選書方法など図書館活動のノウハウは企業秘密となり,企業内研修は行われても他館との交流は行われなくなる。
  2. サービス内容についても当初は直営の時のままを踏襲するであろうが,時間がたつとともに部分的に費用負担が発生することもある。例えば他の図書館からの資料の借用やインターネットの利用などが考えられる。
  3. 指定管理者による受託期間は多くの場合数年程度であり,もし指定管理者が変更されるとサービスの方法や内容が変更されることも考えられ,市民が迷惑をこうむることも十分に考えられる。
など多くの問題が指摘されている。

 2008年の図書館法の改正審議に際して,衆参両院において全会派一致で,「指定管理者制度の導入による弊害について十分配慮して適切な管理運営体制の構築」を国および自治体に求める付帯決議がなされた。また,文部科学大臣も人材確保,育成の視点から指定管理者制度は図書館になじまないとの認識を示し,さらに総務省も指定管理者制度の行き過ぎを正すために運用上の留意点を明らかにした。

 今回,大阪府立図書館の管理運営業務が市場化テストの対象となっているが,図書館に民間委託はなじまないという大きな流れの中で大阪府立図書館の管理運営業務を民間にゆだねることは断じて許されない。大阪府民の宝であり,文化創造の場である府立図書館の役割を十分に果たすためには業務の民営化ではなく,現在の府立図書館が持つ蔵書と運営のノウハウのより一層の充実こそが求められている。

(にしむら かずお 理事・三郷町立図書館)