TOP > 『図書館界』 > 58巻 > 4号 > 座標 / Update: 2006.11.7

《座標》
『図書館界』58巻4号 (Nov. 2006)

「図書館法の世界」を超えて:

『これからの図書館像』が示す世界

柴田 正美

 文部科学省の「これからの図書館の在り方検討協力者会議」が『これからの図書館像:地域を支える情報拠点をめざして』を発表した。内容の紹介と評価は別に取りあげることになるであろうから,私の関心の範囲で述べてみたい。

 「第2章 提案 これからの図書館の在り方」(p.8―35)の「3.これからの図書館経営に必要な視点」(p.26―34)として11の項目が挙げられ,9番目に「図書館職員の資質向上と教育・研修」(p.31―32)を取り上げている。まず資質に関して「図書館が住民の学習や地域課題の解決に貢献できる力を持っていることをアピールする能力を身につけることが必要」(p.31)としている。じっくり読むと,求められているのは「アピールする能力」である。前半の「貢献できる力」は,既に持っていることが前提となっている。しかし現状において,住民の求めている学習内容を把握してきたと自信をもって表明できる図書館員はどれだけいるだろうか。リクエストという形で表明される学習要求に応えることは定着し,実現されてきている。それは「旧来の図書館のイメージに魅かれている人や貸出・リクエストサービスだけを重要視している人」(p.32)たちであり,現状を積極的に改革できる人材ではないとされている。学ぶべき内容は「地域社会の課題やそれに対する行政施策・手法」「地域の情報要求の内容」「図書館サービスの内容と可能性」であり,実現するために「情報技術や経営能力を身につけ,コスト意識や将来のビジョンを持つこと」が掲げられている。

 現に図書館にいる人たちへの研修を三つに分けて述べている。「図書館職員」「図書館長」「図書館に配属された事務職員向けの初任者(図書館にとっての・・・であろう。)研修」である。それぞれに研修内容や研修の手法が提案されており,いずれも納得のできるものとなっている。唯一気に掛かるのが最後の事務職員向けのものである。この提言は,図書館法に定義されている司書・司書補として採用されていない職員が図書館に配属されているという現実をありのままに受け入れ肯定しているようである。個別の自治体の事情を見てゆくとやむを得ないという見方に近づくのであるが,異なった手法への展開は検討されなかったのであろうか。

 周知のように現行の司書・司書補資格取得のためのカリキュラムは,改正から10年を経過しており社会の変化・図書館界を取りまく事情との乖離が目立ちつつある。「実践的かつ専門的な知識・能力を身に付けるとともに,地域社会の課題やニーズを把握する能力,情報技術,図書館経営能力など,改革の進んだ図書館で必要となる能力を身に付けるための」(p.32)内容に変化させなければならないことは当然である。医療・法律などの専門主題情報担当者を目指して「各分野の高度な教育を受けた司書を養成する必要」についても的確な指摘・提案である。これらに加えて次のようなことも検討される必要がある。一つは,溢れかえるように迫ってくる情報の洪水の中から適切な内容を評価できる能力を利用者が弁える方向性をサポートできる能力である。利用者自身の情報能力を正当に評価し,その向上への動機付けをできることが求められる。また,「情報が溢れかえるように存在している」という事実に対応しきれていない利用者ないし未利用者に対しての行動である。小泉改革が徹底的に推し進めてきた「格差拡大路線」から取り残されつつある住民に対して情報サービス機関としての役割を再確認し,具体的な図書館経営に反映させることを企画できるようにならなければならない。それは「社会教育機関」という位置づけすらも再検討の対象にするほどの意気込みが必要である。これらを目指す新たなカリキュラムは図書館法の世界である「15単位」を大幅に超えることを予測しなければならない。

 最後に「司書資格の修得科目改正の際に,従来の科目で資格を取得した司書の再教育を行うこと」と「一定期間ごとに何らかの教育・研修を行って資格を更新する」制度を検討することが提案されている。教員免許においても再教育・更新制度が検討されている流れに沿ったものであろうが,これらの提案を実行するには「司書の職域独占」「研修時間確保を目指した要員増強」「必置制度」が図られる必要がある。ここからも図書館法の世界を変革する必要が生じることに留意しておきたい。

(しばた まさみ 理事・帝塚山大学)