TOP > 『図書館界』 > 58巻 > 1号 > 座標 / Update: 2006.5.3

《座標》
『図書館界』58巻1号 (May 2006)

ハワイ州公立図書館システムと外注,民営化

川崎 良孝

 1980年代までアメリカ図書館界は業務の外注に抵抗していない。それは専門職としての司書職と関連している。専門職は己の仕事を高度化しつつ囲い込む性格を有する。利用者への知的なサービスを広め,深める過程で,積極的に定型的,技術的な業務を非専門職に委ねたり,外注にしてきた。そうした領域には以下がある。目録作成,遡及入力,保存(製本など),資料装備,資料収集(approval planなど),機械化,その他(建物管理など)である。

 状況が一変したのが1980年代,公立図書館では1990年代で,4つの出来事が生じている。まず1983年に連邦行政管理予算局(OMB)が,連邦政府の図書館サービスを商業的活動と位置づけ,NASAの図書館などが民営化された。次に1993年にはライト(Wright, Ohio)州立大学図書館が目録部門をなくし,完全にOCLCに外注した。大きな大学がオリジナルな目録作成を完全に放棄した点で重要だが,目録作業の外注は常態化しており注目されなかった。続いて1995年にはハワイ州公立図書館システムで外注が生じた。25パーセントの予算削減が求められ,120名の職員解雇と20の図書館閉鎖を回避するため,州立図書館長(同州は州全域で一つの図書館システム)は資料選択から配架までをベイカー社(Baker & Taylor)に外注した。最後に1996年にカリフォルニア州のリヴァーサイド公立図書館(Riverside City and County PL)は,市とカウンティの複雑な問題から公立図書館を解消し,図書館経営の知識と経験を持たないカウンティは,図書館全体を民間会社の経営に委ねた。これは公立図書館完全民営化の最初の例である。

 ハワイの場合,図書館員,州議員,住民がベイカー社の資料選択や業務を問題にし,反対運動を展開した。そしてベイカー社との契約は終結され,館長は職を追われた。ハワイの事例は,資料選択という司書の中核(core)サービスに直接かかわるために関心をよび,1997年秋にアメリカ図書館協会会長はアウトソーシング専門委員会(Outsourcing Task Force)を設置した。この委員会は1999年初頭の冬期大会で報告し,評議会に勧告を行った。そこではまず,「図書館は公益として不可欠で,民主的社会に基礎的な機関である」,「利用者の修正第1条上の権利を図書館で守らねばならない」,「外注に際しては,図書館を民主的な機関として支援するという本協会の方針に合致しなくてはならない」という原則の確認を行った。この勧告を評議会は採択した。

 さらに委員会は以下の勧告を評議会に行っている。

本協会は,図書館の中核サービスを営利会社に民営化(privatizing)することに反対する。

 なお同委員会は,「中核サービス」として,蔵書の構成と組織化,情報の収集と提供,すべての図書館利用者への蔵書の提供,蔵書の利用への助力提供,およびこうした諸活動の監督と経営を指摘し,定義づけていた。しかしこの勧告は評議会で敗退した。「中核的サービス」の中身について,合意にいたらなかったためである。その後も「中核サービス」に関する検討を続け,2001年年次大会で,理事会は「中核サービスの設定は1つの館でさえも困難,あるいは不可能である」と結論した。そのため,次の方針を評議会が採択するように勧告している。
本協会は,公費支弁の図書館は奉仕する構成員(publics)に直接的に責任を負い続けなければならないと確認する。それゆえ図書館サービスの方針作成と経営監督(management oversight)を公的部門から私的部門(private for‐profit sector)に移すことに反対する。

 評議会はこの方針を採択し,『アメリカ図書館協会方針マニュアル』に組み込まれた(「52.7公費支弁の図書館での民営化」)。

 アメリカの図書館について,NPOが運営している,業務を委託している,民営化している,ボランティアを使っていると指摘してもあまり意味がない。一つ一つの図書館に歴史と現実があり,それを押さえた上での,ミクロな分析が求められる。と同時に,館界レベルでの合意点と相違点をマクロに把握する必要がある。そうしたマクロな把握とミクロな分析によって,単なる委託や民営化の是非を超えた図書館論や専門職論,知的自由や専門職倫理についての論議に展開,発展していくはずである。

(かわさき よしたか 理事・京都大学大学院教育学研究科)