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《論文抄録》
『図書館界』55巻3号 (September 2003)

戦後復興期における上郷図書館の民主化運動をめぐって

奥泉和久,小黒浩司

敗戦直後の青年会活動は戦前の活動の延長線上にあった。青年会図書館も同様であり,長野県下伊那郡上郷村では,戦後,青年会に図書館運営が委託されたものの,図書館長には国民学校長が充てられるなど戦前の図書館運営を踏襲していた。

ところが,上郷図書館に村の診療所が併設され,青年たちの図書館活動は大きな制約を受けることになった。この頃青年会では自主的な図書館運営をめざすべきだとの議論が起こり,青年たちは図書館を自らのものとし,図書館を診療所から独立させるための運動をすすめることになった。青年たちは,図書館を本来の姿に取り戻すため,民主化運動の一環としてこの運動をとらえ,図書館長の選任についても議論を重ね,図書館規程を改正するなど自主的な管理・運営体制を実現した。

また,青年たちはこの運動をとおして,図書館の運営主体であると同時に,図書館を維持・発展させるため,自ら読書をしたり議論し交流する場を求める,いわば利用者としての主体を形成していく必要性を明らかにした。