TOP > 『図書館界』 > 54巻 > 2号 > 座標 / Update: 2004.1.3

《座標》
『図書館界』54巻2号 (July 2002)

全域サービスはどこへいったのか

西村 一夫

『図書館雑誌』2002年3月号のニュースによれば2001年の公共図書館で新築・新設されたのは67館で,「ここ数年で最も低い数値となっている」という。このうち市区町村立図書館の本館新設は24館で,分館・地区館の増設は15館であった。(残り28館は建替,県立図書館2館を含む)

減っている図書館建設であるが,分館・地区館が15館建設されている。この増設された分館・地区館がどのような計画の下に設置されたのであろうか。新築・新設館の約20%を占めており,複数館設置の自治体が増えていると思われる。しかし,最近は図書館計画の下に全域サービスを進めているという話をあまり聞かないだけに,行政側の事情で設置されたということが多いのであろう。

すでにご承知のように,1970年に日本図書館協会から出された『市民の図書館』は図書館の目標を掲げ,「この目標を達成するために,つぎの3つを当面の最重点目標としよう」と3つの重点を掲げた。それは(1)市民の求める図書を自由に気軽に貸出すこと,(2)児童の読書要求にこたえ,徹底して児童にサービスすること,(3)あらゆる人々に図書を貸出し,図書館を市民の身近に置くために,全域へサービス網をはりめぐらすことであった。

それから30年以上が経った。この間,図書館のサービスの基本である個人貸出しは2401万点(1970年度)から5億2357万点(1999年度)となり,約22倍の伸びとなった。めざましい数字であるが,なお一層伸ばさなければならないサービスである。児童へのサービスではどの図書館にも児童室やコーナーが設けられ,資料提供のほか,おはなし会などが開かれており,サービスは浸透している。
しかし,問題は全域サービスである。図書館問題研究会は『みんなの図書館』2000年12月号で「『市民の図書館』の三十年」と題した特集を組んだ。この中で特集を企画した鬼倉正敏は「全域奉仕は,一自治体に一館のまま止まっていますし,町村の設置率は1999年度で36%にすぎません」と述べている。また,山口県の山本哲生は「全域サービスにいたっては,二館目の整備がなかなかできない中小都市の図書館を中心に,いまだ道遠しの感がある」と『市民の図書館』の重点目標がまだまだできていない現状を憂えている。
この間,図書館関係雑誌の特集等を見ても全域サービスについて触れているものはない。いまや全域サービスはどこへいったのであろうか。

地方自治体の財政は悪化の一途である。資料費を始めさまざまな費目で予算が削られている。こんな状況ではなかなか打って出ることは難しいであろう。しかし,自治体の首長や企画関係担当者は限られた予算の中で住民へのサービスを模索している。その時に図書館のことをうまく乗せられればしめたものである。
そのためには図書館が自治体における図書館政策を持っておく必要がある。このことの重要性はいわれてきたがなかなか実行できないでいる。ましてやこの財政難の時代に,である。作ったところで日の目を見るかわからない。しかし,全域サービスの計画(必要な施設数,施設規模,サービス内容,職員数など)を首長や企画サイドから出る前に,図書館が計画を策定し,それを常にもっておくことが大事である。状況に応じた案がすぐに提示できるかどうかは大変重要であり,そのことが役所における図書館の位置を高めることにもつながるのである。
また,市町村合併の話があちらこちらで浮上しており,すでに実施されている。図書館未設置自治体と設置自治体が合併したら未設置自治体が解消されるけれども未設置地域は残ってしまう。しかし,市町村合併は町づくりを考えるきっかけになり,図書館の全域サービスを進める絶好の機会である。図書館も積極的に発言し,政策づくりを担うことによって全域サービスの実現を図らなければならない。

先に述べたように2001年に建設された図書館の約20%が分館・地区館の増設である。今後建設される分館・地区館が自治体全体の図書館計画の下に全域サービスの一翼として作られることを願わずにはいられない。
そのためにも,それぞれの図書館で『市民の図書館』のいう全域サービスを目指して,今こそ職員の知恵と力を生かして図書館計画を策定し,市民に身近な図書館の実現を図らなければならない。

(にしむらかずお 理事・松原市民図書館)