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読書離れが言われている。このことについて,限定した対象ではあるが,また一つ実証的な検証作業−アンケート調査−が行われている。興味深い内容であるので以下に紹介しておきたい。
調査の規模と概要:調査は昨年5月末から6月中旬の間,東京,宮城,愛知,大阪の各教育大学の2〜3回生を対象として行われた。有効回収数1,316人(回収率78.2%)規模のものである。
調査の名称は「大学生の読書と電子メディア利用に関する実態調査」である。全体構成は,大学生の読書をめぐる状況,調査の目的と方法,調査対象者の基本的属性,大学生の読書の実態,各種メディアの利用の実態,インターネット利用の実態と意識,読書とメディア利用に関する累計的分析,付録資料からなる。全体の報告書は本文85ページ,調査集計65ページ計150ページのものである。
ここではこの調査で示されたごく一部を紹介し,現代学生の読書とメディア利用の一端を垣間見ることができればと思う。詳細は別稿に期待したい。
まず「読書離れ」と一言でいわれている内容を読書量(冊数と時間)の変化としてとらえ,3つの状態に大別している。1つは月に7冊以上読む多読層が存在していることである。この層は全体の10%程度存在し,今も10年前もほとんど変わらず安定した層とな
っている。
2つ目は少し読んでいた中間層が減少し,3つ目のほとんど読まない層の大きな増加につながっているとの指摘がされており,全体として二極分化の傾向にあるとのことである。読書時間は,1日の読書時間がほとんどないとした人が43%という比率を示すが,反面61分以上という回答も11%ある。しかし全体としては減少傾向にあることが示されている。
図書の購入冊数では,図書の購入は読書量と正の相関関係にあり,よく読む人はよく本も購入していること,読まない人は購入冊数も少ないか,ないということを実証している。
読書行動をとるときに本をどこで入手しているかという調査では,73%が書店購入,学生であるので所属館利用が47%,公共図書館利用38%,大学生協購入37%などがある。多読層で書店購入をするもののうち47%が新古書店を利用していることが示されている。一方で,購入0冊グループの人たちはそのうちの48%が図書館を利用しているという数字もある。
メディア利用の関係では,まず携帯電話の所有率が示されているが,実に93%が携帯電話を持ち,うち79%がインターネットメール機能を備えたものを持っていることが明らかになっている。
図書館利用と携帯電話所有率の関係は,図書館を毎日利用する人が78.9%であるのに対し,月2〜3回利用の人は95.7%が所有しており,有為な差となっている。読書行動と携帯電話の関係では,読まなかった人の所有率が98%であったのに比べ,5冊以上読んだ人の所有率は82%となっていること。図書館の利用頻度別の読書と携帯電話の所有の関係は逆方向のメディアであることが示されている。ただし,雑誌に関しては逆に正の相関にあることが示された。
次に,インターネットの関係であるが,ほとんど利用しない層では,読書時間もほとんどなしとする回答が48%となる。一方1時間以上使う層では図書の利用も上昇することが示されている。これは雑誌でも同傾向であり,インターネット利用者と多読層には緩やかな正の相関関係があることが示されている。購入という点では,オンライン書店の利用は1%台であり,まだ本格的に利用されるまでには至っていない。
ここに紹介したのは調査のごく一部であるが,それでも多くの問題を提起している。読書離れといわれているが,上記に見たような変化がどのようにして引き起こされたのか。安定的多読層はなぜ安定的なのか,ほとんど読まない層はこの10年でなぜ大きく増加したのか。これらの問題と,その原因の一つとして関係づけられているメディア環境の変化が読書とどのように関係しているのか,こうした問いについての対応策のヒントがこの調査に隠されているものと考えている。
図書館はこうした利用者の読書行動や読書環境の変化,また利用者から見た図書館観の変化をとらえ,適切に対応し得ているのか,そうしたことを考える一つの材料としてこの調査を活用することができるのではないか。
(さむかわ のぼる 理事・大阪教育大学附属図書館)