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地方に権限を委譲すること,それ自体は悪いことではない。ただこの大義名分によって図書館法が改悪され,その趣旨とは関連のないはずの館長資格までもが,あたかも不必要なものであるかのように伝わり,いくつかの自治体では,館長の司書資格を削除しようとしている。
これまでもボランティアの人から,「図書館員の皆さんが忙しく働いているので,少しでも役立つことがあれば手伝わせてほしい」といわれ,対面朗読や点訳,録音資料の作成,子ども達へのお話などをお願いしてきた。図書館の職員でまかないきれないこともあり, ボランティアの人たちに感謝し,図書館員もボランティアの人たちが援助したくなるような,住民に親しまれる図書館運営を心がけてきた。
しかし,それがNPO法といった施策になるとそうはいかなくなる。
どんな言い訳をしても,公共事業における人員を極力抑制するという行革の路線になる。そしてあからさまではないが,人件費削減のためにボランティアを募集するというケースもでてきた。またさらに進んで,図書館の経営自体をボランティアの団体に任そうという自治体もある。それでは図書館の理念はどうなっていくのであろうか。ボランティアの団体に任せて,自治体の責任は保てるのか疑問である。
これだけではない。もっと強敵も現われてきた。PFI法である。
“民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律”というもので,民間業者に公共施設の建設運営を委託しかねない内容である。
「民間の資金,経営能力および技術能力を活用し財政資金の効果的な使用を図りつつ,官民の適切な役割および責任の分担のもとに,公共施設等に関する事業の実施を民間事業者に行なわせることが適切なものについては,出来るかぎり民間業者に委ねることが求められる」というものだ。これによって,国民に対して低廉かつ良質な公共サービスが提供でき,民間の創意工夫が活用され,さらに民間の事業機会を創出することに通じて,経済の活性化にも資することができるという。
財政難に悩む自治体ではこれに飛びつく動きもあるらしいし,いくつかの民間業者がこれを見越して自治体に働きかけているようである。
公共施設・公用施設・公営住宅及び公益的施設,熱供給施設,新エネルギー施設などが対象とされ,現に発電事業,県立保健・医療・福祉系大学,近代美術館新館整備事業などが検討されているという。
図書館などには関連のない法律と思っていたが,整備が可能な施設として教育文化施設があげられており,美術館がPFI事業によった整備が可能であれば,図書館も対象外とは言っておれないであろう。
現に図書館員にもPFIの研修をしたり,ある市では司書採用試験にPFIが出題されたりしている。図書館員も相当研究しておかねば,当面したときに太刀打ちできないのではなかろうか。
公立図書館に無料の原則が生きているうちは,図書館の運営全般を民間業者に任すことは難しいことかもしれないが,人材派遣会社のような形で図書館運営に関わってくることはありうるだろう。
PFI事業を推進する立場でいえば,図書館の基本計画などの策定は民間業者の方が強い。現に民間のコンサルティングは自治体にはいり実績を積んでいる。図書の受入から配架までも人材派遣に請負わせた例もある。選書についても民間業者が出版情報を提供し,それに基づいて図書館は購入しているではないか。移動図書館の運用も,相互貸借の搬送業務も,宅配サービスも民間委託が可能な分野である。それにITの導入が今後の図書館業務の全般にかかわってくるが,図書館職員だけでは対応が難しく,今でも外部に委託している例がある。外国では,刑務所までもが民間業者に委託されているという話を聞くと,無関心ではいられない。
こうした事態に図書館関係者はどう対応すべきか,後手に回らないようにその対応を研究しておく必要がある。
(いとう しょうじ 理事・阪南大学)