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《座標》
『図書館界』51巻3号 (September 1999)

「電子化」時代における図書館理念の確認

志保田 務

アメリカでは公共図書館のインターネット・サービスが普及しつつある。図書館の電子的サービスは焦眉の問題となっている。ところで日本の館界では「電子図書館」に対する批判が少なくない。だが諸意見の内には、焦点を変えると情報化が現実となった場合にも活かしうる議論があるように思う。それらを参考に電子化時代と図書館理念の関係を問う。

永く図書館に関わってきた私などにはよくわかる意見であり、図書館を大切にする考えだと思う。
ただこれらは主に図書の良さ、電子情報の悪さを語るものであり、図書館機能の卓抜さを述べるものではない。情報化の渦中で図書館側の主張が、扱う「メディア」中心で十分であろうか。

電子的処理は今日社会的動力の中心の位置を占めつつある。一般市民に対する電子面での情報サービスの活発化は必須であり、社会のどこかで実行されないと困る時代である。図書館は「まだ電子的な情報サービスをする機関ではない」と仮定したとしてみよう。その場合には図書館サービスのと同様の電子情報サービスを行う何らかの機関が必要となる。関係の機関として、情報センター、ロジテック等が考えられる。ところがそれらにおけるサービス観は、図書館世界のそれと間々異なることがあるように見受ける。

ここ数年間、情報センター関係の経営に携わり、そうした機関等に見聞を重ねた。そこでは一種の不満を感じた。図書館が達成しているようなサービス理念、サービスシステムを見ることが少なかったことである。情報センター側には館界に習うべき面が多いのである。思いつくままに一部をあげる。

1. 無料

無料制は、1950年制定の「図書館法」に明記されている。しかし情報センター等のなかには1990年以降も、登録料を取ったところがあるようである。

2. プライバシーの保護

情報管理の面を強調するところでは、情報機器が勝手な使い方をされぬよう、利用者の画面を管理側から透けて見える形でおくことがある。しかし読書の秘密の厳守をうたう「図書館の自由に関する宣言」(1954, rev1979)の下ではあり得ないことであろう。

3. 読書の自由

情報管理の次元ではフィルターソフトの導入の可否は、主に機器使用目的、費用対効果の面で検討される。しかし「図書館権利憲章」等のある図書館では、読書権の尊重方向で判断される。

4. 専門職による援助の保障

図書館における貸出やレファレンスサービスでは司書(専門職)による情報サービスを第一としている。情報機器利用関係では、技術関係のヘルプデスクやボランティアによる操作援助を受けることができるが、情報内容および関連情報についての質問等は通常できない。援助者に関して、専門職の制度が備えられていないからである。

日本の大学では電子面での情報サービスは情報センター等が担うかのように思われていた時代があった。しかしそこには上に見たような、「図書館」の感覚とは異なるものがある。アメリカの多くの大学では「情報」のうち「情報サービス」に関するものは図書館で扱う。そのうねりが公共図書館に到達している。電子面での情報サービスは目前にある。
図書館情報化の流れの中で「情報」側で形成された管理的属性が、「図書館」側に侵入してくる怖れがある。無料制、読書の自由等の侵食である。ただ情報機関側にも、検索結果の出力用紙の無料化など、館界で躊躇するような面を超克した展開点はある。

情報化の潮流の中で図書館は、図書という扱うメディアの良さを土台に、それを利用に移すための図書館機能、それらを支える図書館理念、諸制度・法制等の卓越性を、再確認すべき時期にあると考える。

(しほた つとむ 桃山学院大学文学部)