「アウラの漂う建物にはいくつかのタイプがある。…世俗的なものでありながら,本来の機能を果たすことによって神聖さを帯びる建物のタイプも1つある。偉大な図書館がそれだ。」
図書館はどこへいくのだろう。図書館が変動期を迎えて久しい。情報量の激増・メディアの多様化・インターネット関連技術の驚異的な進歩から予算・人員の削減まで図書館界をとりまく世界は大きく変化している。犬の1年は人間の7年に相当することからドッグイヤーと呼ばれるディジタルの世界であるが,図書館界も無縁ではいられない。
冒頭の言葉は,英国図書館新館を設計したウィルソン教授の言葉である。1999年ロンドンのセント・パンクラスに,英国図書館新館が全面開館された。新館の完成により,十数箇所に点在していた英国図書館のコレクションは一箇所にまとめられ,より快適な環境が提供されている。
なぜ壁のない図書館・電子図書館の時代に,20万平方メートルという来館型巨大図書館が建てられたのだろうか。英国図書館では,来館型サービスと非来館型サービスを明確に分けて考えられており,来館型サービスは交通の便の良いロンドンで,非来館型サービスは人件費や土地代の安価なボストン・スパで行われている。
来館型サービスを提供している新館は,五感を意識した図書館である。建物には,木材・皮革・大理石といった素材が多用されているが,これは触覚や嗅覚を重要視した結果採用された素材である。また,「人文科学」「稀覯本及び楽譜」「手稿本」「地図」「特許」「ビジネス」などの閲覧室は,資料やその利用者の特性に応じた造りとなっており,各閲覧室はそれぞれのアイデンティティをもっている。人は図書館という空間で,過去の記憶と出会い,思索し,思考を熟成させる。新館は,現時点でディジタル化できていないものを提供しようとしているのである。資料のディジタル化やディジタル資料の提供など,電子図書館型・非来館型サービスに偏重しがちな風潮の中で,来館型サービスをも大切にするという英国図書館のポリシーが,ここに強く感じられる。英国図書館新館は,まさに英国図書館のポリシーを体現した図書館であるといえよう。
WWWが普及し,情報発信が容易になりつつある。日本図書館協会により1999年に行われた大学図書館調査では,「大学図書館におけるコンピュータの利用状況」についての調査が行われた。「電子図書館への取り組み」の項では「ホームページの立ち上げ」「自館資料の電子化」「電子ジャーナルの提供」についてその実施状況が問われたが,他の取り組みに比べてもっとも多く「ホームページの立ち上げ」が実施されているという報告がなされている。同報告によると,1999年5月現在,60.4パーセントの大学図書館で,ホームページが公開されているという。
ホームページは,潜在的利用者への広報の手段であるとともに,組織内外へ図書館の意義を報知する有効な手段でもある。ここ数年のホームページの立ち上げそのものを目的とする状況は少し落ち着き,ようやくコンテンツを検討する時期が訪れている。「情報を発信する」ことから一歩進んで,「情報をどう発信するか」「発信する情報をどう見せるか」−情報デザイン−が重要になってきている。情報デザインは,情報の伝達度に大きく影響する。どんなによいコンテンツを提供していても,見せ方が良くなければ,充分に伝えることは難しい。
けれども,ホームページはあくまでも「手段」であり,情報デザインは「手法」である。変動期にある図書館にとって,その存在意義が今改めて問われている。時間の流れが速いこの状況下だからこそ,「手段」と「手法」と「目的」とを混同することなく,図書館のポリシーを再認識し,的確に伝える手法を確立することが不可欠ではないだろうか。「ポリシーを表現するための情報デザイン」という構図を今一度確認したい。
アウラが漂う図書館にポリシーと優れた情報デザインは欠かせない。
(どんかい さおり 京都大学附属図書館)