文部省社会教育施設情報化・活性化推進事業として、「地域電子図書館プロジェクト」が1998年度から 3か年にわたって年間14件の委託事業として推進されている。これらの中で事業のホームページを拝見した範囲では、図書館がその推進主体となっているのは、秋田県立図書館が中心となっている「地域電子図書館構想」(http://www.apl.pref.akita.jp/)など少数派のように思われる。このことは パイロットプロジェクトであること、トピックスとして生涯学習推進支援型を目的とし、広く社会教育施設の情報化・活性化の推進事業と位置づけられていること、自治体における推進部局がどこかなど、さまざまな要因が推測される。
しかし、懸念されるのはこうした課題中心型プロジェクトにあって、情報の収集・組織化、提供に最も力量を持つはずの図書館の存在が薄いように感じられることである。現実世界では図書館は複合施設にあっても、機能の中心的位置を多く占めている。図書館は住民の集う場としての存在をもっているからである。しかし少なからぬホームページに登場する図書館は、図書館所在案内地図であったりしている。図書館サービスのネットワーク上への広げは、今準備中なのであろうか。この落差をどうとらえ、埋めていくのかが問われてはしまいか。
筆者の住む県でも、新県立図書館の電子図書館構想が進んでいる。電子図書館は図書館にとって目的ではなく、利用者の求める資料・情報を提供する手段であることは、いまさらいうまでもない。県下市町村図書館への資料提供、各種教育研修体制の提供、特に財政基盤の脆弱な町村図書館への振興援助策推進など、物心多面におよぶ日々の図書館活動の積み重ねの上にこそ、電子図書館機能を利用したさらなるサービス提供がネットワーク上に実が結ぶといえよう。現実世界の図書館活動の実態の薄いところに、突然ネットワークの上に新しい大輪の花を咲かせるのは困難である。
また行政情報の提供もその中には構想されているが、それは県広報紙の電子版(お知らせ広報)にとどまらず、県民参加のまちづくりの一歩となる政策情報、住民自治参加手続きの積極的な公開をも含むものであることを地方の時代にあって強く望んでいる。
一般化して述べれば、電子図書館構築に関係する要素技術は手段であり、適格な手段の組み合わせ判断をし、標準化の動向を押さえた上での、そこで提供されるコンテンツ−内実こそが大切となる。
この意味では、技術が内容よりも注目された初期の電子図書館プロトタイプは、時代の役割を一つ果たしたように思われる。
しかし一方長いスパンでは、電子図書館に総称される各種要素技術は、文献宇宙の構成員である著者、編集者、出版社、取次、書店、図書館、利用者などが歴史的に形成してきた情報の生産、流通、消費、再生産の連鎖の流れを大きく変容させるインパクトを持っている。ネットワークは技術としてみれば、社会的中立のものであるが、制度としてはつながっていない組織をはじく。
このことは、最近のマスコマ紙上の話題を一、二、取り上げても理解できよう。電子商取引、電子マネー、ネットワーク銀行、オンライン書店、アウトソーシングとバーチャル企業などなどである。これらは技術としては同じ根をもつ。卑近な例を上げれば、すでに銀行振り込み料金において、窓口扱いよりATM使用が安価な体系として定着して久しい。また本年度中には、携帯系電話が在宅電話の加入者数を越えようとしている。数年後には、従来新しい特別なサービスであった携帯系電話が普通のサービスとなり、在宅電話が例外的特別なサービスと位置付けられ、特別料金体系に移行する可能性も秘めている。
図書館界においても、情報化時代の情報弱者に対する対応が課題の一つとして取り上げられるようになってきた。新しい図書館サービスとして、情報リテラシーサービス(教育)の提供も話題となっている。ただし大きな情報流通連鎖の中で、気がつけば図書館そのものが情報弱者の位置にいた、などということのないよう自戒・研鑽を進めたい。
図書館の蓄積してきた力量と人の専門性の内実が問われている。
(きた かついち 大阪市立大学)