アメリカ図書館協会知的自由委員会(Intellectual Freedom Committee)の機関誌『ニュースレター・オン・インテレクチュアル・フリーダム』で、索引項目“Internet”の初出は1993年の第42巻を対象とする年間索引であった。それは「オンラインでの言論の自由」という記事で、例えば大学生がチャイルドポルノをインターネットで流したことを取り上げていた。この時期の記事は大学を舞台としていた。
インターネットは公立図書館に広がり、1994年には公立図書館を対象に最初の全国調査が報告された(C. McClure etc. Public Libraries and Internet, Washington D.C., NCLIS)。この調査ではインターネットを利用者に開放しているのは12.7パーセントであった。それが1996年調査では27.8パーセントと倍増し(C. McClure etc. The 1996 National Survey of Public Libraries and the Internet, http://istweb.syr.edu/Project/Faculty/McClure-NSPL96/NSPL96_TOC.html)、1997年では60.4パーセント、1998年には73.3パーセントと飛躍的に高まっている(C. McClure etc. 以下のホームページ参照。http://www.albany.edu/~jcbertot)。
こうした広まりにたいし、アメリカ図書館協会は1996年1月に『図書館の権利宣言』の解説文『電子情報、サービス、ネットワークへのアクセス』を採択した(全訳は川崎『図書館の原則:新版』日本図書館協会、1997, p.402-405)。基本的立場を示すこの文書は、インターネット上の資源を活字資料と同じように扱い、ネット上の資源へのアクセスを保障しなくてはならないと主張している。しかし特に子どもの利用をめぐって問題が絶えず、図書館協会は短期間に次のような決議や方針を提出する。
1997年7月には最高議決機関の評議会が『フィルターソフトの使用に関する決議』(Resolution on the Use of Filtering Software in Libraries)を採択し、知的自由委員会は『フィルターソフト使用に関する声明』(Statement on Library Use of Filtering Software)を発表した。また解説文『電子情報、サービス……』を具体的に説明した「問答集」を作成して改訂してきた。
さらに1998年に知的自由委員会は『公立図書館でのインターネット利用方針を作成する指針と考察』(Guidelines and Considerations For Developing a Public Library Internet Use Policy)を作成したのである。
ところで現在論争の的になっているのは、フィルターソフト使用の是非である。この点について前述の評議会決議は、フィルターソフトの使用を『図書館の権利宣言』違反と明言している。要するに表現の自由の保護下にない表現には既存の法体系で対処でき、フィルターソフトの使用は憲法の保護下にある表現を遮断することで表現の自由を侵すというのである。具体的には1998年の「問答集」が参考になる。そこでは最も頻繁に出される問題として、「児童室以外でフィルターソフトのないコンピュータがあり、児童がそうした端末を利用できる場合、児童室でのフィルターソフト使用には問題ないか」を指摘している。
この問題について「問答集」は5点を満たすよう期待した。
(1)全体的な図書館利用の方針と分離せず、そうした方針に統合化した広範なインターネット利用方針を作成する。(2)方針を住民全体に教育する。(3)児童室でフィルターソフトを用いないアクセスを提供する。(4)児童については親の指導を強力に奨励する。(5)情報の獲得に専門的な助力を与える。
これらは図書館協会の立場の再確認であるが、同時に問題の多発を示している。
1997年、ヴァージニア州ロウドン(Loudoun)公立図書館は、すべてのインターネット端末にフィルターソフトを入れると決定した。これにたいして修正第1条違反として提訴された。その判決(Mainstream Loudoun v. Board of Trustees of the Loudoun County Library, April 7, 1998; November 23, 1998)はネット上の資源を全体として「百科事典」とみたて、フィルターソフトの使用は百科事典の一部を削除することに対応するとした。フィルターソフトは憲法の保護下にある多くの表現を遮断する点で、内容にもとづく表現の制限になるのである。この判決は公立図書館とインターネットを正面から取り上 げた最初の重要な判決であり、詳しい検討が必要であろう。
(かわさき よしたか 京都大学)