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《コラム http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/nal/》
『図書館界』50巻3号 (September 1998)

研究者のインターネット利用

川崎 良孝

インターネット,WWWといった語は日常語になった。研究や資料収集の仕方が激変した人も多かろう。
インターネットの利用者調査については,例えばジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)のGVUセンター(Graphic, Visualization, & Usability Center)が,継続的に実施している。1997年調査は回答者10,108名という大規模なものであった (http://www.cc.gatech.edu/gvu/user_surveys/survey-1997-10/)。
しかし大きな調査はミクロな理解に欠ける場合がある。そこで研究者のインターネット利用に関する調査をネット上で探ってみた。キャンベラにあるオーストラリア国立大学「太平洋・アジア研究大学院」(Research School of Pacific and Asian Studies)のT.シオレック(T. Ciolek)が,1998年2月に実施したインターネット上でのオンライン調査(http://www.ciolek.com/PAPERS/InternetSurvey-98.html)は,筆者にとって興味ある結果を示していた。

この調査は「太平洋・アジア研究」の研究者が参加していると思えるメーリングリスト(asia-www-monitor@coombs.anu.edu.au参加者566名など)を7つ取りだした。その参加者の延べ人数は1,767名である。次にメーリングリストでの参加者の重複を10パーセントとし,推定調査対象者を1,590名とした。そして1998年2月下旬から2週間を調査期間にあて,メーリングリストを利用して調査票を配布した。回答は280件(17.6パーセント)であった。

まず回答者の国別では,アメリカが108名(38.7パーセント)と圧倒的で,続いてオーストラリア53(19.0),カナダ,ドイツ,イギリスが各12(4.3),日本が10(3.6),ニュージーランドとオランダが7(2.5)といった具合であった。職業では,研究・教育が195名(69.6パーセント)を占め,企業が36(12.9),NGOが16(5.7),政府が14(5.0)である。インターネットの経験年数は,4-6年が120名(43.2パーセント),1-3年が118(42.4)となっており,ほとんどの人がMosaic,Netscapeといったブラウザの出現後に,インターネットを使いはじめたことを示している。なお利用経験の最長者は25年,平均は3.9年となっている。

筆者の関心は,画面に向かう時間の長さと,その作業内容にあったが,時間については次のようであった。1週間に16−20時間が39名(14.1パーセント)で最多,続いて11−15時間が38(13.7),6−10時間が32(11.6),5時間未満27(9.7),21−25時間24(8.7)である。なお平均は19.7時間である。そしてジョージア大学の調査と同じように,利用経験と利用時間の長さは比例していた。
この週19.7時間をどのように使っているのだろう。その内訳は,(1)インターネット上の資源の利用15.1時間,(2)インターネット上の資源への情報の追加(情報の維持,修正)4.6時間である。前者では電子メール2.6時間,ネットニュース1.6時間,それにメーリングリスト1.5時間が多い。後者では,個人のホームページの維持が最も多く0.7時間である。
これを仮に週40時間の勤務時間にあてはめると,(1)「インターネット上の資源への情報の追加」が4.6時間で11.5パーセント,(2)「電子メール,メーリングリストでの他者とのコミュニケーション」が4.1時間で10.3パーセント,それに(3)「ブラウジング,サーフィング,資源や情報の内容を見るなど」が11時間で27.5パーセントとなる(計49.3パーセント)。コンピュータに向かう時間と,従来のペーパーワークや対人コミュニケーションにかける時間が,ほぼ等しくなっている。
この調査はインターネットの一般的な利用者ではない。国際的な分野の研究者,それもインターネットの利用に非常に積極的な利用者と考えてよかろう。また調査手法上の限界も多々あると思える。

こうした数値について,当然と考える人も,驚く人もいるだろう。率直なところ,筆者は週20時間もコンピュータに向かいたくない。また情報を多く得ることが,そのまますぐれた研究論文に直結するとも思えない。一方,研究に欠かせない情報や資料が,インターネット上にたくさんあるのも事実である。そのため,最低限の情報,かつ不可欠な情報だけが入ってくるようにと,手前勝手な方法をいろいろと考えている。   

(かわさき よしたか 京都大学)